おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

男はつらいよ ぼくの伯父さん

2022-04-08 08:18:35 | 映画
「男はつらいよ ぼくの伯父さん」 1989年 日本


監督 山田洋次
出演 渥美清 倍賞千恵子 後藤久美子 檀ふみ
   吉岡秀隆 下絛正巳 三崎千恵子 前田吟
   太宰久雄 佐藤蛾次郎 関敬六 イッセー尾形
   戸川純 笹野高史 夏木マリ 笠智衆

ストーリー
寅次郎の甥・満男(吉岡秀隆)は浪人中の身であり人生に悩んでいた。
そんな時、寅(渥美清)が柴又に帰ってきた。
息子の悩みに応えきれないさくら(倍賞千恵子)は、寅に満男の悩みを聞いてくれと頼む。
気軽に引きうけ、さっそく近くの飲み屋に満男を連れていき、そこで高校時代の後輩で佐賀へ転校してしまった泉(後藤久美子)という少女に恋していることを聞かされる。
その夜満男のことで博(前田吟)と大ゲンカした寅はいつものごとくプイッと飛び出してしまう。
一方満男は日に日に大きくなる恋と進学の悩みに遂に親子ゲンカ、そしてバイクに乗って泉のいる佐賀へと向かっていった。
満男の出現にビックリしながらも感激する泉だった。
そこで偶然寅と再会した満男はさっそく二人で泉の家へ訪れていった。
郷土史研究家で人に説明するのが大好きな祖父(イッセー尾形)が寅次郎たちを迎え入れ、二人はすっかり気に入られ、ぜひ泊まってゆけという。
母親の妹に当たる寿子(檀ふみ)も親切にしてくれた。
夫の嘉一(尾藤イサオ)だけは人が家に泊まるのを嫌がっていたが、しぶしぶ了解する。


寸評
本作から後藤久美子の及川泉が重要な登場人物となるのだが、当時ゴクミと呼ばれ美人の代表の様に扱われていたた後藤久美子は派手さはないがやはり美人である。
寅さんが登場してこなかったら完全な青春映画で、流れるBGMもそれらしく感じさせる。
満男が泉に恋い焦がれる姿にいじらしさともどかしさを感じさせるが、それが青春だと思うと懐かしい。
満男が中心の話なので寅さんが失恋するエピソードはない。
泉の伯母である檀ふみに恋しそうになるが夫がいてそこから先には進まない。
「奥さん、幸せになってくださいね」と言うのがやっとである。
そしていつものように大失敗をやらかすこともない。
せいぜい満男を連れて行った飲み屋の飲食費をさくらに払わせる程度だ。
むしろ今回の寅さんは立派だ。
寅さんは満男を励ますために小野小町と深草少将の話を聞かせる。
小野小町に恋い焦がれた深草少将が100日間通い詰めて思いを遂げたんだから満男もそれぐらいの事をしろと寅さんは励ますのだが、小野小町と深草少将の話はそうではない。

小町は度々文を送り恋の成就を願う深草少将に「それほど私を想ってくださるなら、その証拠に百日の間、毎夜私の元へ通ってください。もし百夜通い続けてくださったら、私はあなたの心に応えます」と告げる
深草少将は小町の言葉を信じ毎夜小町のところへ長い道のりを通い続ける。
深草少将は、苦行のような通い道をひたすら続けて99日、あと一夜というところで雪と病により通い道の途中で倒れてしまう。
深草少将の想いにいつしか小町も少将を想うようになり、百夜目を心待ちにしていたのだが叶うことなく、二人は永遠に別れてしまったという悲劇である。
流石にこれでは励ましにならないから、寅さんは二人が結ばれたことにしている。
寅さんにそこまでの教養があったとは思えないが、見ている人たちも寅さんの話に納得してしまいそうで、間違った知識を得てしまうかもしれない。
寅さんがカッコいいのはそれだけではない。
高校教師の嘉一が満男をけなしたことに対し「私のようなできそこないが、こんなことを言うと笑われるかもしれませんが、私は甥の満男は間違ったことをしてないと思います。慣れない土地へ来て、寂しい思いをしているお嬢さんを慰めようと、両親にも内緒ではるばるオートバイでやってきた満男を、私はむしろよくやったと褒めてやりたいと思います」とキッパリ言うのである。
こんな寅さんは見たことがない。
大体、嘉一という男は「満男と泉がバイクに乗っているのを見られたら、高校教師の自分はどう思われるか」とか、「泉に何かあれば自分は切腹ものだ」などと自分の身ばかりを気にしている自己中心的な教育者だ。
泉はけっして幸せとは思えないが、寅さんは泉の学校を訪問し泉に優しい言葉をかける。
優しい心を持っているが、非常に自分勝手な感情で騒動を巻き起こしてきた寅さんであるが、本作での寅さんは優等生で別人を見る思いがする。
それを是とするか非とするかは長年のファンにとっては評価の分かれるところだろう。