おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

かあちゃん

2022-04-23 12:07:46 | 映画
「か」の作品は2回にわたって紹介しています。
1回目は2019/3/1の「会社物語 MEMORIES OF YOU」からでした。
その後、「怪談」「海炭市叙景」「顔」「ガキ帝国」「鍵泥棒のメソッド」「隠し砦の三悪人」「影武者」「風と共に去りぬ」「家族」「家族ゲーム」「かぞくのくに」「学校」「カッコーの巣の上で」「勝手にしやがれ」「葛城事件」「カティンの森」「彼女の人生は間違いじゃない」「蒲田行進曲」「神々の深き欲望」「紙の月」「紙屋悦子の青春」「髪結いの亭主」「ガメラ 大怪獣空中決戦」「ガメラ2 レギオン襲来」「かもめ食堂」「花様年華」「カルメン純情す」「川の底からこんにちは」「ガンジー」「歓待」「カンバセーション…盗聴…」「がんばっていきまっしょい」を紹介しました。

2回目は2020/12/6の「海外特派員」からでした。
その後、「海軍特別年少兵」「鍵」「駆込み女と駆出し男」「影なき男」「影の軍隊」「陽炎座」「カサブランカ」「華氏451」「家族はつらいよ」「火宅の人」「学校II」「カプリコン・1」「カポーティ」「カメラを止めるな!」「カルメン故郷に帰る」「華麗なる一族」「華麗なる賭け」「がんばれ!ベアーズ」を紹介しております。
興味のある方はバックナンバーからご覧ください。

3回目の今回は、追加で思いついた作品を紹介します。

「かあちゃん」 2001年 日本


監督 市川崑
出演 岸恵子 原田龍二 うじきつよし 石倉三郎
   中村梅雀 勝野雅奈恵 山崎裕太 飯泉征貴
   紺野紘矢 宇崎竜童 春風亭柳昇 コロッケ
   尾藤イサオ 常田富士男 小沢昭一

ストーリー
飢饉による不景気で貧窮生活を余儀なくされていた天保末期の江戸。
老中・水野忠邦による改革の効なく、江戸下層階級の窮乏は更に激化していた。
とある貧乏長屋で5人の子供を育てる気丈夫な母おかつ(岸惠子)。
だがおかつの家では一家総出で働いてかなりの金を貯め込んでるという噂があった。
ある夜、その噂を聞きつけた若い男・勇吉(原田龍二)が泥棒に入るが、勇吉と出くわしたおかつは怯えることもなく、彼に金を貯めている理由を語った。
その理由とは、おかつの長男・市太(うじきつよし)の大工仲間で、3年前に生活に困った挙げ句に仕事場の帳場から盗みを働いた源さん(尾藤イサオ)が牢から出て来た時に、新しい仕事の元手にする為のものだったのだ。
そのことをおかつから聞かされた心根の優しい勇吉は、他人の為にそこまでやるおかつたちの気持ちに感動し何も盗らずに去ろうとするが、そのままおかつに引き留められ、彼女の5人の子供たちと一緒に暮らすことになる。
やがて、おかつによって身元の証の書付まで用意して貰った勇吉は、市太の紹介で職にも就いた。
ある日、「俺ァ、生みの親にもこんなにされたことがなかった」と勇吉は感謝の気持ちを口にした。
しかし、それを聞いたおかつは声を震わせて怒鳴った。
「子として親を悪く云うような人間は大嫌いだよ!」
その言葉に、一層、人間を心底愛するおかつの心を知った勇吉は、心の中でそっと呟いた。
「かあちゃん」と・・・。


寸評
人情小話の落語を聞いているような作品で、色を落としたセピア調の画面で雰囲気を出している。
飢饉に苦しむ庶民の長屋のセットがさらに彼らのおかれた状況を表していて美術の健闘が光る。
出演者数も限られていて群衆シーンなどはない。
中村梅雀、春風亭柳昇、コロッケ、江戸家小猫の4人が狂言回し役としていつも居酒屋でたむろしているが、この居酒屋の客は彼ら以外にはいない。
長屋の女将さん連中が集って騒ぐ場面もなく、錆びれた長屋であることも分かる。
落語の枕よろしく、映画のタイトルが出る前に石倉三郎の熊五郎宅に入る泥棒のエピソードが描かれる。
この小ネタでもって、この作品の雰囲気が知らされていた。

気丈な母親であるおかつに岸恵子が適役だったのかどうか判断に苦しむが、でも彼女の持っている凛とした雰囲気はおかつの人柄を表してはいた。
人情話なので悪人は出てこない。
泥棒の勇吉も優しい男で、おかつの説教に素直に従ってしまう。
大家の小沢昭一もひょうひょうとしていて適役だった。
珍しく好々爺を演じていて、今まで演じてきた特異なキャラクターとおさらばしている。

牢屋から出てきた源さんを迎えるシーンはホロリとさせられる。
人の親切、人の情が薄れていく昨今だが、ここで描かれた人と人の無償の係わり合いに感激するようでは現実社会はいい世の中とは言えない。
私も少年の頃、可愛がってくれた近所のおばさんの家でいつも昼ご飯を頂いていた。
「昼ご飯を一緒に食べていき」と言うのが常の事で、幼かった私はその言葉に遠慮するなどと言う心配りなど持ち合わせておらず、いつも腹いっぱい食べさせていただいていた。
そのまま居残り、兄貴分と慕う先輩にべったりだったことを思い出す。
そんな近所付き合いは無くなってしまったような気がする。

珍しくなった家族愛も描かれる。
子供達5人は母親を信頼し、母親の意見に素直に従っている。
4男1女で末っ子の七之助はまだ幼い。
その七之助も普請のあった屋敷などに行っては鉄くずを集めてきて金に換えている。
これなども私が幼かったころにやっていた行為だ。
電力会社の電線工事があれば、前述の兄貴分の号令のもと切り落とされた銅線を皆で拾い集める。
当時は銅が結構いい値で売れて、集められた銅線を鉄くず屋へ持っていくと幾ばくかの菓子代ぐらいにはなって、皆でその分け前にありついたことも思い出された。

娘のおさんが勇吉に思いを抱いていることをほのめかしながら、この家族の結束と信頼を描いて映画は終わるが、特別の感動をもたらす作品ではなく、誰もの心に染み入る文部省推薦的な作品であった。