おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

男はつらいよ 知床慕情

2022-04-06 07:51:15 | 映画
「男はつらいよ 知床慕情」 1987年 日本


監督 山田洋次
出演 渥美清 倍賞千恵子 竹下景子 三船敏郎
   淡路恵子 下絛正巳 三崎千恵子 前田吟
   吉岡秀隆 太宰久雄 美保純 すまけい
   イッセー尾形 佐藤蛾次郎 笠智衆

ストーリー
久しぶりに寅次郎が帰ってきたというのに、“とらや”は竜造が入院のため休業中。
翌日から店を開けるというつねに、寅次郎は手伝いを買って出るが勤まる訳がない。
またまた口論の末、飛び出した。
北海道の知床にやって来た寅次郎は、武骨な獣医・上野順吉が運転するポンコツのライトバンに乗ったのが縁で彼の家に泊ることになる。
順吉はやもめ暮らしで、この町のスナック“はまなす”のママ・悦子が洗濯物などの世話をやいていた。
“はまなす”は知床に住む気の良い男たちのたまり場で、常連は船長、マコト、文男、それにホテルの経営者の通称“二代目”たち。
そこに寅次郎が加わって宴はいっそう賑いだ。
そんなある日、順吉の娘・りん子が戻って来た。
駆け落ちして東京で暮らしていたが、結婚生活に破れて傷心で里帰りしたのだ。
寅次郎たちは暖かく迎えたが、父親の順吉だけが冷たい言葉を投げつける。
身辺の整理のため、東京に一度戻ったりん子は、寅次郎からの土産を届けにとらやを訪れ、さくらたちから歓待を受けたが、とらやの面々はまた寅の病気が始まったと思うのだった。
東京から戻ったりん子も囲んで、“知床の自然を守る会”と称するバーベキュー・パーティが広々とした岸辺で開かれた。
そこで一同は悦子が店をたたんで故郷に帰る決心であることを知らされた。
順吉が突然意義を唱え、寅次郎は「勇気を出して理由を言え」とたきつける。
順吉は端ぐように「俺が惚れてるからだ」と言い放った。
悦子の目にみるみる涙が溢れる。
寅次郎はりん子に手を握られているのに気づき身を固くした・・・。


寸評
何といっても渥美清と三船敏郎の共演である。
コマーシャルで引切り無しの人気タレントは数多くいるが、大スターと言われる俳優は滅多にいないものだと痛感させられる三船敏郎の存在感である。
それにベテランの淡路恵子が絡んで大人の芝居を見せてもらった。
知床の草原でバーベキューをやっているのだが、そこで三船敏郎が寅さんに促されて愛を告白する。
「今言わなかったらな、一生死ぬまで言えないぞ」と寅さんは三船の先生に言うのだが、それはずっと寅さんがやってきたことの反面教師から出た寅さんの叫びである。
先生は意を決して「よし!…、言ってやる…。言ってやるぞ!」と吐き出すと、寅さんは「よし!!いけええー!!」と応援する、まるで青春ドラマの1コマが演じられる。
そして三船敏郎の先生は、スナックをやめて田舎の新潟に帰るというスナックのママに叫ぶ。
「俺が反対しているのは…、俺が惚れているからだ!悪いか!」
それを聞いたママの淡路恵子が女学生のように顔を覆って泣く。
彼女の目、表情、口跡がまるで少女のように変化するのである。
プロポーズした三船さん、プロポーズされた淡路さんに、ベテラン俳優の凄さを感じた瞬間だった。

渥美清さん、三船敏郎さん、淡路恵子さんの共演に加えて、森繁久彌さんの「知床旅情」が流れる。
それだけで非常に贅沢な作品だと言える。
そして珍しいことに、りん子さんが2度もとらやを訪ねているのに、とらやで寅さんと出会う場面がない。
美人のマドンナが現れて恋の騒ぎが巻き起こるのが定番だったのにそれはない。
ちょっと寂しい気がする。
寅さんはりん子さんとの仲を冷やかされたことで知床を去っていくが、それは三船先生が淡路ママへの思いを寅さんに指摘された時と同じ状況で、船長の寅さんへの指摘もズボシだったのだ。
寅さんは美しい知床に定住することなく、再び旅がらすとして去っていくのだが、いつになく美しい知床の自然と景色がいっぱい映し出されていた。
すまけいの船長は「アキアジが生まれた川に戻ってくるようにりん子ちゃんが帰って来た」と挨拶し、「オジロ鷲がシベリアから飛んできて、この知床半島に羽を休めるように、寅さんという色男が仲間に入ってくれた」と挨拶したが、結局りん子さんが北の大地で羽を休め、そして羽ばたいて行ったのだ。

見ていると細やかな演出が目に付いた。
寅がいるとらやの向こうに印刷工場があって、芝居をする向こうの窓越しに印刷工場で働く一人の工員の姿がぼんやりと背景で小さく写り込んでいる。
工員が居なくても良いようなカットだが、そこでも芝居させているのだ。
先生の動揺する気持ちを愛用の帽子で上手く表現していた。
りん子が帰ってきた時に、先生は居場所をなくして出かけるのだが、その時帽子がポトリと落ちる。
ママさんが店をやめると聞いた時もやはりポトリと帽子が落ちる。
それは自然なカットで目にも止まらないものなのだが、そのような些細なことにも気を配るのが映画だと思う。