「男はつらいよ お帰り 寅さん」 2019年 日本
監督 山田洋次
出演 渥美清 倍賞千恵子 吉岡秀隆 前田吟
美保純 佐藤蛾次郎 後藤久美子 笹野高史
池脇千鶴 浅丘ルリ子 夏木マリ 桑田佳祐
ストーリー
満男(吉岡秀隆)も今や50歳、かつて勤めていた靴会社を辞めて今では小説家に転身していた。
満男は6年前に妻を亡くしており、今では中学3年生になる一人娘のユリ(桜田ひより)と二人暮らしをしている。
満男は担当編集者の高野節子(池脇千鶴)から著書のサイン会開催を提案されているが、恥ずかしいからという理由で断っている。
後日、満男の亡き妻の七回忌が柴又の実家で営まれ、満男の母で寅さんの妹のさくら(倍賞千恵子)、満男の父・博(前田吟)、ユリ、妻の父・窪田(小林稔侍)らが集い、先代からその座を受け継いだ御前様(笹野高史)を迎え入れて法要が始まった。
満男はかつて両親の縁を取り持った“フーテンの寅”こと車寅次郎(渥美清)のことを思い出していた。
窪田や“タコ社長”の娘・朱美(美保純)は満男に再婚を勧めるが、満男は余計なお世話だと怒る。
しかし、満男はこの賑やかな光景に、お茶の間はいつも寅さんも交えて賑やかだったと振り返っていた。
駅で満男とユリを見送るさくらは、満男の初恋の相手だった泉(後藤久美子)は今頃どうしているかと思った。
そんなある日、結局都内の書店でサイン会を開くことになった満男は、見覚えのある女性からサインを頼まれたが、それは泉だった。
久しぶりに再会を果たした満男は泉を寅さんのかつての想い人だったリリー(浅丘ルリ子)の経営する神保町のジャズ喫茶に連れて行き、その夜、泉を両親の住む柴又の実家の2階に泊めることにした。
翌日、満男は泉を確執のあった父・一男(橋爪功)が暮す神奈川の介護施設まで送っていった。
施設では泉の母・原礼子(夏木マリ)が待っていた。
寸評
この映画は山田洋次が敬愛する渥美清にささげた作品であると同時に、「男はつらいよ」シリーズのファンに贈る作品でもある。
作中で渥美清の寅さんが幻となって表れ、過去の作品の一場面が再現される。
過去のフィルムから挿入された場面はどれもが記憶にあるシーンの連続で懐かしかしい。
当然若かりし頃のさくらも登場するのだが、倍賞千恵子さんも歳をとったなあと感じて感慨深いものがある。
歴代のマドンアたちもワンカットで登場するが、亡くなられている方もおられる中で皆さん若い。
やはり若い頃は輝いている。
反面、役者さんは若い頃の姿を作品の中に残せて幸せだなあとも思う。
50作目となる本作は、この作品の為に撮ったシーンに加えて過去の作品を登場させ、そこに渥美清の寅さんをはめ込むという手法がとられているが、映像的にもストーリー的にもその場面に対する違和感はない。
僕は「男はつらいよ」シリーズが始まったころ、映画監督の加藤泰氏と話す機会があり、氏から「音はつらいよは落語的な面白さだから長続きするよ」と言われたのだが、正に図星であった。
しかしマンネリから逃れることは出来ず、僕は前半の作品の方が好きだ。
最後の方は渥美清の体調もあって、吉岡秀隆演じる満男が中心の話になっていたのだが、それは満男と満男が想いを寄せる及川泉を絡ませたものだった。
今回は愛し合っていたが結ばれなかった満男と泉の後日談といった感じである。
満男は別の女性と結婚したが、妻に先立たれ一人娘のユリと二人暮らしである。
泉はヨーロッパで結婚してイズミ・ブルーナと名乗り、国連難民高等弁務官事務所の職員として働いている。
二人が偶然出会って過ごす三日間の話は僕の思い出も重なって、二人の心情が感じ取れる内容だった。
思い出の中の寅さんは自らの恋愛をはぐらかす満男に「思っているだけで言葉で言わないと何もしないのと同じだ」と語っていたし、満男が「いつも肝心な時に自分から逃げ出すのが寅さんの悪い癖なんだ」と言っているのだが、それは満男自身のことでもあった。
しかし僕は青年期にも満たない時期にあっては起こりえる恋愛感情と行動であったと思うのだ。
そのじれったさが思春期の恋だと思う。
その二人がお互いに結婚し子供もできた時期に再会し、一時は昔の頃に立ち返る。
僕は二人が過去の気持ちを再確認しあう空港のシーンが羨ましかった。
再び別れなければならない二人だが、気持ちだけは一生を通じて持ち続けるのだろう。
タコ社長の生まれ変わりとして娘の朱美(美保純)が登場し、寅さんの生まれ変わりが朱実の息子・浩介(中澤準)だったと思う。
この映画を見ると、歳をとって白髪が混じった寅さんの姿も見たかったなあという気になった。
東映の任侠映画が全盛で、日活のロマンポルノが登場した頃に始まった松竹の「男はつらいよ」シリーズだったが、僕にとってはまさしく青春の一ページを飾った映画だった。
ファンにとっては懐かしさを感じる作品だったが、シリーズに縁のなかった人にとっては実につまらない作品だったのではないかと思う。
監督 山田洋次
出演 渥美清 倍賞千恵子 吉岡秀隆 前田吟
美保純 佐藤蛾次郎 後藤久美子 笹野高史
池脇千鶴 浅丘ルリ子 夏木マリ 桑田佳祐
ストーリー
満男(吉岡秀隆)も今や50歳、かつて勤めていた靴会社を辞めて今では小説家に転身していた。
満男は6年前に妻を亡くしており、今では中学3年生になる一人娘のユリ(桜田ひより)と二人暮らしをしている。
満男は担当編集者の高野節子(池脇千鶴)から著書のサイン会開催を提案されているが、恥ずかしいからという理由で断っている。
後日、満男の亡き妻の七回忌が柴又の実家で営まれ、満男の母で寅さんの妹のさくら(倍賞千恵子)、満男の父・博(前田吟)、ユリ、妻の父・窪田(小林稔侍)らが集い、先代からその座を受け継いだ御前様(笹野高史)を迎え入れて法要が始まった。
満男はかつて両親の縁を取り持った“フーテンの寅”こと車寅次郎(渥美清)のことを思い出していた。
窪田や“タコ社長”の娘・朱美(美保純)は満男に再婚を勧めるが、満男は余計なお世話だと怒る。
しかし、満男はこの賑やかな光景に、お茶の間はいつも寅さんも交えて賑やかだったと振り返っていた。
駅で満男とユリを見送るさくらは、満男の初恋の相手だった泉(後藤久美子)は今頃どうしているかと思った。
そんなある日、結局都内の書店でサイン会を開くことになった満男は、見覚えのある女性からサインを頼まれたが、それは泉だった。
久しぶりに再会を果たした満男は泉を寅さんのかつての想い人だったリリー(浅丘ルリ子)の経営する神保町のジャズ喫茶に連れて行き、その夜、泉を両親の住む柴又の実家の2階に泊めることにした。
翌日、満男は泉を確執のあった父・一男(橋爪功)が暮す神奈川の介護施設まで送っていった。
施設では泉の母・原礼子(夏木マリ)が待っていた。
寸評
この映画は山田洋次が敬愛する渥美清にささげた作品であると同時に、「男はつらいよ」シリーズのファンに贈る作品でもある。
作中で渥美清の寅さんが幻となって表れ、過去の作品の一場面が再現される。
過去のフィルムから挿入された場面はどれもが記憶にあるシーンの連続で懐かしかしい。
当然若かりし頃のさくらも登場するのだが、倍賞千恵子さんも歳をとったなあと感じて感慨深いものがある。
歴代のマドンアたちもワンカットで登場するが、亡くなられている方もおられる中で皆さん若い。
やはり若い頃は輝いている。
反面、役者さんは若い頃の姿を作品の中に残せて幸せだなあとも思う。
50作目となる本作は、この作品の為に撮ったシーンに加えて過去の作品を登場させ、そこに渥美清の寅さんをはめ込むという手法がとられているが、映像的にもストーリー的にもその場面に対する違和感はない。
僕は「男はつらいよ」シリーズが始まったころ、映画監督の加藤泰氏と話す機会があり、氏から「音はつらいよは落語的な面白さだから長続きするよ」と言われたのだが、正に図星であった。
しかしマンネリから逃れることは出来ず、僕は前半の作品の方が好きだ。
最後の方は渥美清の体調もあって、吉岡秀隆演じる満男が中心の話になっていたのだが、それは満男と満男が想いを寄せる及川泉を絡ませたものだった。
今回は愛し合っていたが結ばれなかった満男と泉の後日談といった感じである。
満男は別の女性と結婚したが、妻に先立たれ一人娘のユリと二人暮らしである。
泉はヨーロッパで結婚してイズミ・ブルーナと名乗り、国連難民高等弁務官事務所の職員として働いている。
二人が偶然出会って過ごす三日間の話は僕の思い出も重なって、二人の心情が感じ取れる内容だった。
思い出の中の寅さんは自らの恋愛をはぐらかす満男に「思っているだけで言葉で言わないと何もしないのと同じだ」と語っていたし、満男が「いつも肝心な時に自分から逃げ出すのが寅さんの悪い癖なんだ」と言っているのだが、それは満男自身のことでもあった。
しかし僕は青年期にも満たない時期にあっては起こりえる恋愛感情と行動であったと思うのだ。
そのじれったさが思春期の恋だと思う。
その二人がお互いに結婚し子供もできた時期に再会し、一時は昔の頃に立ち返る。
僕は二人が過去の気持ちを再確認しあう空港のシーンが羨ましかった。
再び別れなければならない二人だが、気持ちだけは一生を通じて持ち続けるのだろう。
タコ社長の生まれ変わりとして娘の朱美(美保純)が登場し、寅さんの生まれ変わりが朱実の息子・浩介(中澤準)だったと思う。
この映画を見ると、歳をとって白髪が混じった寅さんの姿も見たかったなあという気になった。
東映の任侠映画が全盛で、日活のロマンポルノが登場した頃に始まった松竹の「男はつらいよ」シリーズだったが、僕にとってはまさしく青春の一ページを飾った映画だった。
ファンにとっては懐かしさを感じる作品だったが、シリーズに縁のなかった人にとっては実につまらない作品だったのではないかと思う。