おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

火口のふたり

2022-04-30 09:37:59 | 映画
「火口のふたり」 2019年 日本


監督 荒井晴彦
出演 柄本佑 瀧内公美
声の出演 柄本明

ストーリー
東京で川に釣り糸を垂らしていた賢治(柄本佑)の携帯に、従妹の直子(瀧内公美)の結婚が決まり、直子から賢治に式の日程を連絡するように頼まれたと故郷の父(柄本明)から電話が来る。
東日本大震災の影響で勤めていた印刷会社が倒産して以来、賢治は「プータロー」をしていた。
挙式まであと10日の直子は早朝、式に出るために秋田に帰省した賢治の実家に行った。
賢治の母が死に、父が再婚し、ふだんその家には誰も住んでいなかった。
新居で使うテレビを家電量販店から運ぶのを手伝って直子の実家に行った賢治は、直子が大切にしていたアルバムを見る。
そこにいるのは東京で保母の専門学校に通っていた20歳の直子と、25歳の賢治。
二人が肉欲のままに体を重ねる姿を撮った何枚もの白黒写真だった。
「私の体を懐かしくなったことって本当に一度もないの?」と言う直子。
500万円で買ったという新居にテレビを持って行った後、帰ろうとする賢治をつかまえ直子は「今夜だけ、あの頃に戻ってみない?」と、賢治の唇を、首を、胸を吸い、賢治もそれに応える。
一晩だけのつもりだった。
だが翌日、賢治は直子の実家に行き、直子をテーブルに押し倒してセックスをする。
婚約者が来週の水曜日に出張から帰ってくる。
それまでの五日間、賢治と直子は昔の二人に戻ることにした。
賢治は直子と別れた直後にできちゃった婚で結婚したが、その後浮気をして、娘が1歳の時に離婚した。
それ以来娘と会ったことはなかった。
結婚式を直前に控えた朝、賢治に父から結婚式が延期になったとの電話が入った。


寸評
かつて関係を持っていた男女が、女の結婚を控えて再会してセックス生活を行っているだけの映画と言えばそれまでだが、荒井監督の執念のようなものを感じさせる作品でもある。
直子は子供が欲しくなったと言うだけの理由で結婚を決意していて、結婚相手のエリート自衛隊員に愛情を感じている風でもない。
しかも、一人娘の自分が子供を産まないと母親に悪いからとの思いが根底にある。
つまるところ直子は結婚生活に夢を描いているわけではないので、不本意な生活の入る前にやりたい事をやっておこうとの気持ちが湧いたのだろう。
賢治と直子の関係においては、直子の方が積極的である。
賢治が故郷から離れた時も追いかけて行っているし、今回も直子からモーションをかけている。
1回だけと言いながら、今度は賢治の方が直子から離れられなくなる。

直子は結婚相手に対して生身をさらけ出すことができない。
おまけに相手が自衛官とあって、機密事項を結婚相手にも告げることが出来ないし、直子がそれを知ると叱責されてしまうような関係である。
どこかよそよそしい関係だが、直子は賢治に対しては逆に素直になれてしまう。
直子と賢治の間には愛と言う感覚はなく、一番気楽な相手で何もかもさらけ出すことができる間柄だ。
直子は素っ裸でいることも、お腹が痛くなれば恥じらいなく撫でてもらうこともできる。
要するに気の置けない関係で、一番リラックスして付き合える間柄なのだ。
賢治の亡くなった母親はそんな二人の関係を見抜いていたのかもしれない。
しかし、二人には未来に対する関係性の展望はない。
そんな関係を表現するかのように、二人は事あるごとにセックスにふける。
突然たまらなくなって新居を訪問した賢治が直子に襲い掛かる。
建物の隙間でも事を行う。
スリルを味わうためか、バスの中でも行為に及ぶ。
セックスに対しては無軌道な二人で、その姿を追い続ける荒井晴彦の執念ともいえる粘りはスゴイし、演じた柄本佑も瀧内公美もスゴイ。
二人の姿にはリアリティがある。
見方によってはセックスシーンしかない映画なのだが、どこかで自分を押さえたり演じたりしなければならない結婚生活のつまらなさに比べれば、どこまでも自分に正直な二人の生き方を礼賛しているようにも思える。

富士山の大きな火口の写真がある。
明日にもその富士山が再噴火するかもしれない。
二人の生き方は今にも噴火しそうな火口の周りを歩いているような危ういものである。
明日には吹き飛ばされて死ぬかもしれないので、今日を悔いなく楽しく生きる二人なのだが、どこか破滅的で僕は乗り切れないものを感じた。