おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

秘密

2021-10-09 09:17:22 | 映画
「秘密」 1999年 日本


監督 滝田洋二郎
出演 広末涼子 小林薫 岸本加世子
   金子賢 石田ゆり子 伊藤英明
   大杉漣 山谷初男 篠原ともえ

ストーリー
スキーバスの転落事故で、病院に運ばれた杉田平介(小林薫)の妻・直子(岸本加世子)と高校生の娘・藻奈美(広末涼子)だったが、直子は息を引き取り意識不明だった藻奈美は一命を取りとめる。
ところが、意識が戻った藻奈美の体には直子の人格が宿っていたのである!
戸惑いながらも、世間的には父と娘として暮らすことになる平介と直子(広末涼子)。
だが、17歳の体になった直子はいきいきと若さを満喫する一方、平介は疎外感を感じるばかりか、医大に入学した直子の周りに恋の噂もあって気が気じゃない。
そんなふたりの気持ちは、次第にすれ違うようになっていく。
しかし、お互いの愛を確かめようにも平介は娘の体をした直子を抱くことは出来ないのだ。
ある日、平介は事故を起こしたバスの運転手・梶川(大杉漣)の息子・文也(金子賢)から、父親が家族の生活の為に過剰労働して事故を起こしてしまったことを聞かされる。
家族の幸せが自分の幸せだと語っていた梶川の言葉に、平介は直子が藻奈美として生きていくことが彼女の幸せなのではないかと思うようになる。
そんな折、藻奈美の人格が現れ出したのである。
娘が戻ってきたと喜ぶ平介だが、同時にそれは直子の人格が消えることを意味していた。
そして、複雑な想いの平介に運命の日はやってきた。
平介と直子は、初めてデートした岬の公園で永遠の別れをする----。
それから数カ月後。
花嫁の父である平介は、藻奈美を文也に嫁がせようとしていた。
ところが、彼は自分の喉元を触って髭の剃り残しを確かめる直子の癖から、実は藻奈美の人格は直子のままであったことに気づいてしまう。
だが、彼女の幸せを考えた平介は、彼女を娘として送り出してやるのだった。


寸評
人格が入れ替わる話と言えば大林宣彦の「転校生」が思い浮かぶ。
東野圭吾による同名小説が原作なのだが、この作品の面白いところは亡くなった妻の人格が娘に乗り移るという着想にあり、先ずは売れっ子作家東野圭吾のお手柄と言える。
身体は娘だが精神は妻ということで、夫であり父親である杉田平介が妻を意識しながらも娘の体に触れることが出来ないという生活を、時にファンタジックに、時に滑稽に描いている。
妻として抱こうとするが、娘の姿を見ると抱くことが出来ないというジレンマに悩む平介を小林薫が彼のキャラクターを生かして軽妙に演じている。
妻が若返ったり、赤の他人に乗り移ったりしているのなら抱くこともできるだろうが、さすがに娘となると「やっぱり、やめておこう」となるのは当然の気持ちだと思う。
そのやり取りは少々エロチックで、直子が宿った広末涼子はいい感じだ。

数学の授業を聞いても理解できない直子だが、身体と脳は藻奈美なので問題を出されるとスラスラ解けてしまう。
母と娘という年齢差もあるから、人格が入れ替わることで生じる戸惑いや、可笑しな出来事はもっとあっても不思議ではないが、焦点は夫婦関係に絞られている。
この辺は「転校生」とは違う描き方だ。
直子は藻奈美として高校生活を送り、大学にも合格し、言い寄る男も出てくる。
中年の冴えない男の平介に対し、若返った直子が溌溂とした人生を送り出すといった関係を描いていたらもっと面白かったかもしれない。
伊藤英明の相馬先輩に言い寄られる直子に嫉妬するだけでは物足りなかったなあ。
喜劇的要素を多分に含ませているので、この問題は深刻にならずいつのまにやら消え去っている。

ある日、藻奈美の人格が現れ出すが、藻奈美は今の状況が理解できない。
だとすれば、母の死を知って悲しむのが当然だと思うが、見る限りにおいてはそのようには見えない。
大学に合格した高校生の藻奈美が寿司屋で日本酒を飲んでいるのは、実はそれが直子であるからだという細かい演出だと思うので、藻奈美の人格が現れた時にも細かい演出があっても良かったのではと思う。

直子の人格は徐々に消えていくが、最後になって直子の人格が消えていなかったことが判明する。
そうすることでこの映画を見終った人に想像を掻き立てさせるという余韻を残している。
再び直子の人格がよみがえってきたのだろうか。
あるいは、ずっと直子の人格のままだったが、藻奈美の人格を演じ続けていたのだろうか。
たぶん後者だろう。
直子は自分が藻奈美にならないと平介の幸せはないと思ったに違いない。
そして平介よりはるかに長生きをする自分の幸せもないとも思ったのかもしれない。
このあと平介はどうするのかなあ。
石田ゆり子の橋本先生との再婚を考えるのだろうか。