おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

風雲児 織田信長

2021-10-22 07:36:35 | 映画
「風雲児 織田信長」 1959年 日本


監督 河野寿一
出演 中村錦之助 香川京子 月形龍之介
   進藤英太郎 中村賀津雄 里見浩太郎

ストーリー
尾張の国守である父信秀が没したのは、信長(中村錦之助)が十六歳の時である。
万松寺で行われた葬礼で、信長は荒縄を腰に巻いた異形の姿で現れ、抹香を父の位牌に投げつけた。
妻の濃姫(香川京子)は彼の陽やけした頬に光る涙を見た。
世は群雄割拠の時代で、濃姫の実父・美濃国稲葉城主斎藤道三(進藤英太郎)も尾張を狙う者の一人だった。
使が信長との会見を申入れてきたが、信長は少しも関心を示さず武術のケイコに励んでいた。
「尾張の大うつけ」が定評となったが、それが信長のつけ目で、その奇行は家臣までもあざむいた。
家老・平手政秀(月形龍之介)は諫書を呈すと、切腹して果てた。
心から信頼していた臣を失ったことを悲しみ、信長はそれを契機に正徳寺で道三と会見した。
道三は罠を用意していたが、信長は槍と鉄砲計千人を道中にひき連れ、道三をおびやかし、会見の場では例の狂人的姿から礼装に早変りし、先手をうった。
道三は手の掌を返すように歓待し、信長は彼に勝った。
彼の帰りを予期しなかった濃姫はその無事を喜んだ。
--突然、上洛を目指す今川義元(柳永二郎)率いる四万の大軍が、尾張領になだれこんできた。
信長の手勢は四千、その前衛は次々につぶされた。
清洲城の信長は出陣の気配を示さず、家臣は焦立つ。
信長は濃姫に鼓をうたせ、“敦盛”を静かに舞い納めると、彼はすぐさま出陣を命じた。
義元は勝報に気をよくし、折からの猛暑を田楽狭間に避けた。
信長軍は嵐をついて桶狭間を襲い、義元の首級を馬前に、信長は清洲城に引き揚げた。
白装束で死を決していた濃姫には、夢のようだった。


寸評
織田信長という一大の英傑を主人公にした歴史時代劇で、1551年父親である織田信秀の死から1560年の桶狭間の戦いまでを描いている。
映画は義父である斎藤道三との面会場面と、今川義元を打ち取った桶狭間の戦いに焦点を当てていて、その間の出来事は描かれていない。
1556年には斎藤道三が子の斎藤義龍との戦いで敗死している。
この時に信長は道三救援のため、木曽川を越え美濃の大浦まで出陣するも、勢いに乗った義龍軍に苦戦し、道三敗死の知らせにより信長自らが殿をしつつ退却している。
また1557年には謀反を企てた弟の信行を病と称して清洲城に誘い出し殺害するなど、尾張統一に苦心していた時期でもある。
どちらも大きな出来事だと思うが、作品が散漫になる為か場面としては前述の二場面しかない。

斎藤道三を描くために信長の正室である濃姫を登場させ、仲睦まじい間柄を描いているが、濃姫に関する資料は少なく実際は冷遇されていたのではないかと思われる。
側室である生駒家の吉乃を厚遇し、二人の間には信忠、信雄、徳姫という三人の子供が生まれている。
信忠は嫡男であり、徳姫は松平信康の正室となり、信康切腹事件に絡んだ女性だ。
資料が全くと言っていいほど残っていない濃姫が物語上では著名で、ここでも香川京子がいい妻を演じているが、それは下剋上の典型ともいえる斎藤道三の娘だったからだろう。

信長と道三の会見場所は尾張と美濃の国境にあったとされる富田という集落の聖徳寺である。
信長が親衛隊を引き連れ、いつもの「たわけ」姿で聖徳寺へ向かう行進を、道三は富田の町外れで隠れてこっそり見ているとうおなじみの場面が描かれる。
兵が持つ300丁の鉄砲に驚く様子もよく描かれているが、6メートルを超える長槍の件は出てこない。
聖徳寺に着いた信長は素早く正装に着替え道三の前に現れる。
この時の錦之助は、さすがに貴公子と唸るほどの凛々しさを見せる。
当時の東映において、これだけの気品と威圧感を出せる俳優は中村錦之助を置いて他にはいない。
道三の家臣らの前を平然と通り過ぎて、縁側の柱に寄りかかり道三を待ち、現れた道三を家臣が紹介すると、信長は一言「であるか」と答えたというが、ここでは道三が信長を迎える形をとっている。
会見後の美濃への帰り道で、道三の家臣が「信長は評判通りのうつけでしたな」というと、「無念だがわしの息子らは、そのうつけの下につくことになるだろう」と道三が言ったという逸話も紹介されていない。
描き方はきわめてダイジェスト的である。

桶狭間の闘いを描くドラマでは、今川軍本隊が田楽狭間で休憩をとっている事を知った信長が、今川義元の首を狙って奇襲作戦を取るような描かれ方が多いが、ここでは正面攻撃をかけているような印象である。
「迂回攻撃説」もあったが、今では「正面攻撃説」の方が有力の様で、ここでの描き方がより近いのかもしれない。
河野寿一はテレビに転じて「新選組血風録」や「燃えよ剣」などの名作時代劇を世に送り出したが、映画作品としてはこの「風雲児 織田信長」が一番だろう。