おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

百万円と苦虫女

2021-10-10 08:00:49 | 映画
「百万円と苦虫女」 2008年 日本


監督 タナダユキ
出演 蒼井優 森山未來 ピエール瀧
   竹財輝之助 齋藤隆成 笹野高史
   嶋田久作 モロ師岡 キムラ緑子
   矢島健一 江口のりこ 佐々木すみ江

ストーリー
短大を卒業後、就職に失敗した21歳の佐藤鈴子。
仕方なくウェイトレスのアルバイトを続けていた彼女は事件に巻き込まれて警察の厄介に。
家族の非難を受けた鈴子は“百万円貯まったら出て行きます!”と宣言。
新聞配達にビル清掃、苦情受付係などを掛け持ちして働く。
やがて百万円の貯金を達成して家を出た鈴子は、海辺の街に辿り着く。
アルバイトを始めた海の家ではかき氷の腕を褒められ、サーファーの青年に何かと声を掛けられる。
だが、鈴子は貯金が百万円になると次の土地を目指して出て行き、山間の村へ辿り着いた。
喫茶店店主が彼女に桃畑農家の住み込みのバイトを世話してくれる。
デリカシーはないが優しい春夫と、その母親の温かい老婆との田舎暮らしは楽しい日々だったが、村おこしのための“桃娘”役を断ったことで、村にいづらくなる。
次に訪れたのは、東京から特急電車で1時間ほどの地方都市。
ホームセンターでアルバイトを始めた鈴子は、先輩店員の中島亮平にお茶に誘われる。
彼を信頼し、刑事告訴されたこと、百万円貯めては転々としていることなどを明かす。
そんな彼女に中島は“好きです”と告白、2人の幸せな日々が始まる。
だが、中島は鈴子の貯金が百万円に近づくと、金の無心をするようになる。
中島に別れを告げた夜、いじめられっ子だった弟の拓也から手紙が届く。
そこには、いじめっ子に反撃したことなどが書かれていて、拓也の言葉に感きわまった鈴子は、ひとしきり泣いてから、今までの自分を振り返り、これからの決意を綴る・・・。


寸評
刑務所に入っていた鈴子が出所してくるシーンから始まるので、予備知識なしで見ているとヘビーな物語だと思ってしまうような出だしだ。
ところがシャバに出た鈴子が口ずさむのが「シャバダバ、シャバダバ…」という11PMの主題歌で、あれ?そういう映画なのかと引き戻される。
11PMという深夜番組があったことを知らない人が多くなってしまったけれど、ドンピシャ世代の僕にとってはくすぐったくなるオープニングだ。
蒼井優は独特の雰囲気と間を持った面白い女優だと思う。

鈴子は、これといったとりえもなく、不器用で意志の弱い女性だ。
自分の意思を相手に上手く伝えられないで、結局そこから逃げ出すしかない。
追いつめられるとブチ切れするような所もあるのだが、常にそうではなくそんな態度は滅多に見せない。
刑務所に入ることになる一件と、昔の同級生に絡まれた時ぐらいで、旅に出てからは鳴りを潜める。
それは自分の過去を知られたくないための自己防衛の結果だったのかもしれない。
鈴子の旅は「自分探し」の旅でもあるのだが、鈴子は「自分を探したくない」と言う。
そして、探さなくても自分はここに存在しているし、その自分を認めるしかないのだとの思いだけは持っている。
しかしそこに存在し人とかかわりを持つと、そこには自分が望まないことも生じてくる。
気に入らない男に言い寄られたり、やりたくないことも強要されたりし始める。
行きたくない飲み会にも参加することになるが、笑ってやり過ごすことが出来ない。
傷つけたくない気持ちがあるから、相手の意にそぐわない意思表示をためらってしまう。
普通の人なら軽くあしらったり、不本意ながらもやりこなしたりするのだが、鈴子はその性格から行く先々で鈴子にとっての厄介な人間関係に巻き込まれてしまう。
それらの出来事はありそうな話で、鈴子に同情してしまう。

鈴子がとても魅力的に描かれているのだが、それは蒼井優の魅力によるものなのかも知れない。
蒼井優ファンの僕には彼女が不思議な存在感を持ったステキな女性に思えた。
頼りなさそうなのに芯の強いところも見せる。
不器用だけど彼女なりに一生懸命に生きているから共感できる。
鈴子と弟の心の交流を描くことで、いじめられっ子の弟の成長と鈴子の成長が同時に描かれ、人間が成長するというのはこういうことなのだと思わされる。

森山未來との関係も、純愛路線に突入してきたかと思いきや意外な展開になって目をくぎ付けにする。
男の目論見はある程度したところで想像でき、そしてそれが確定されると、やはり最後は純愛路線になるのかと僕が思ったところでのラストシーン。
前向きに生きようとする鈴子の新たな旅立ちにふさわしい余韻あるものだが、同時にその後の展開も想像させる隙間を残したラストで心地よかった。
鈴子は新たな旅立ちをしたのか、それとも彼との新しい関係を切り開いたのか?