おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ビルマの竪琴

2021-10-18 08:12:24 | 映画
同監督がリメイクした「ビルマの竪琴」は2020/2/17で紹介しています。
バックナンバーからご覧ください。

「ビルマの竪琴」 1956年 日本


監督 市川崑
出演 三国連太郎 安井昌二 浜村純
   内藤武敏 西村晃 春日俊二
   中原啓七 伊藤寿章 土方弘
   北林谷栄 沢村国太郎 中村栄二
   佐野浅夫 三橋達也 伊藤雄之助

ストーリー
1945年の夏、敗残の日本軍はビルマの国境を越え、タイ国へ逃れようとしていたが、その中にビルマの堅琴に似た手製の楽器に合せて、「荒城の月」を合唱する井上小隊があった。
水島上等兵は竪琴の名人で、原住民に変装しては斥候の任務を果し、竪琴の音を合図に小隊を無事に進めていた。
やがて、小隊は国境の近くで終戦を知り、武器を捨てた彼らは遥か南のムドンに送られることになったが、水島だけは三角山を固守して抵抗を続ける日本軍に降伏の説得に向ったまま、消息を絶った。
ムドンに着いた小隊は、収容所に出入りする物売りの婆さんに水島を探して貰うが生死のほども判らなかった。
ある日、作業に出た小隊は青い鸚鵡を肩にのせた水島に瓜二つのビルマ僧を見掛けて声をかけるが、その僧侶は目を伏せて走り去った。
水島は生きていたのである。
三角山の戦闘のあと、僧侶姿の彼はムドンへ急ぐ道で数知れぬ日本兵の白骨化した死骸を見て、今は亡き同胞の霊を慰めるため、この地へとどまろうと決心した。
物売り婆さんからあの僧侶の肩にとまっていた鸚鵡の弟という青い鸚鵡を譲り受けた井上隊長は「水島、いっしょに日本へ帰ろう」という言葉を熱心に教え込んだ。
三日後に帰還ときまった日、隊長は物売り婆さんに弟鸚鵡をあの僧侶に渡してくれと頼んだ。
すると、出発の前日になって水島が収容所の前に現われ、竪琴で「仰げば尊し」を弾いて姿を消した。
あくる日、物売り婆さんが水島からの手紙と青い鸚鵡を持って来た。
鸚鵡は歌うような声で「アア、ジブンハカへルワケニハイカナイ」と繰り返すのだった。
それを聴く兵隊たちの眼には、涙が光っていた。


寸評
公開時には「ビルマの竪琴 第一部」と「ビルマの竪琴 第二部・帰郷篇」という形で公開されたらしいが、現在みることが出来るのは「第一部」「第二部」を編集した「総集編」で、本作がそれにあたる。
したがって、シーンによっては説明不足感があり少し違和感を感じるが、それを想像で補っていくとかえってテーマが浮き上がってくる。

三国連太郎が率いる井上小隊は結束していて、終戦間際の殺伐とした雰囲気はない。
それでも第二次大戦での敗北が濃厚になり、ビルマ戦線における井上小隊もイギリス、インドの連合軍に反撃され敗走している。
井上隊長は音楽大の出身ということで彼らは時々合唱をするが、追い立てられているなかで合唱などできるものかと疑問に思うが、そんな疑問を吹き飛ばしてしまう説得力はある。
彼らは殺戮部隊ではないので村人にひどい仕打ちを行うわけではなく、相応の対応をしてもらっている。
第一、この部隊の戦闘行為は全く描かれていない。
敵軍に取り囲まれたところで終戦を知り、武装解除を自ら行っている。

対極にあるのが三角山に立てこもる日本軍で、彼らは降伏を良しとせず玉砕の道を選ぶ。
井上隊長と、三角山守備部隊の隊長との考えの相違で三角山では多くが死んでしまう。
部隊の兵隊たちも玉砕を選択するが、位が低い連中は戦争が終わっているなら降伏したいような雰囲気もわずかであるが描かれている。
上層部が人命を左右したのだというテーゼでもあった。

水島上等兵は三角山の日本兵に戦争の終結を伝え、降伏をする説得する役目を井上隊長から命じられる。
結局その役目は果たされず、三角山守備隊は全滅してしまい、水島の彷徨が始まる。
水島はビルマの僧に助けられるが、その僧の衣服を盗んで彷徨を続ける。
僧衣を盗むという行為を咎めるような演出がないのはいかがなものかと思う。
この時点では水島の心は、ムドンにいる仲間の元へなんとしても帰り着きたいという思いが強かったと思う。
その為の僧衣着服だったのだが、しかしそれでも助けてもらった僧の衣服を盗むのはもってのほかだ。
悪いと思っていながらも、そうせざるを得なかった雰囲気は出ていなかった。
少し違和感を持ったシーンだった。

水島は彷徨を続ける中で、多くの日本人の亡骸を見る。
うち捨てられた死骸を見て、この人たちを置いて日本には帰ることが出来ないとの思いに至る。
彼の行為を見守る現地人。
やがて彼等も水島の埋葬作業に無言で参加する。
水島が竪琴で奏でる「埴生の宿」と共に、人間として心が通じ合ういいシーンだ。
一人の兵隊が言うように、井上隊長は水島の手紙を何と言って日本にいる家族に渡したのだろうと思う。
それを思うと目頭が熱くなる。