おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

火まつり

2021-10-07 08:01:49 | 映画
「火まつり」 1985年 日本


監督 柳町光男
出演 北大路欣也 太地喜和子 宮下順子
   三木のり平 安岡力也 伊武雅刀
   小鹿番 藤岡重慶 小林稔侍
   左右田一平 菅井きん 八木昌子
   高瀬春奈 川上麻衣子 蟹江敬三

ストーリー
前は海、後ろは山に挟まれた紀州・熊野の小さな町は、海洋公園の建設が予定され、その利権で揺れている。
町の人々は木こりと漁師で構成されているが、この両者はほとんど接触をもたない。
木こりの達男(北大路欣也)は、自分を慕う青年・良太(中本良太)を連れ、漁師のトシオ(安岡力也)と付き合ったり、神の入江で泳いだり、榊で罠を作るなど、タブーをことごとく破る乱暴者だ。
達男には妻(宮下順子)と二人の子供がいるが、町に幼なじみの基視子(太地喜和子)が現われて二人の交際がはじまる。
達男の奔放な生き方に町の人々は顔をしかめているとき、海に重油が撒かれ、養殖のハマチが死んだ。
みんな達男がやったと思っている。
基視子は姉のスナックを手伝うことになり、土地ブローカーの山川(三木のり平)をはじめ、町の若い男たちが彼女に付きまといだし、年寄りたちは他所者の彼女を冷ややかに見ていた。
やがて基視子は山川から金をだまし取り、借金で人手に渡りかけていた新宮のスナックを取り戻した。
達男、トシオ、良太たちは基視子の店に遊びに行く。
暫くして達男たちは山に入ったが、晴れていた空は急に雲り、やがて激しい嵐が襲ってきた。
良太や仲間たちは下山するが、達男はひとり残り、何か超自然的なものを感じる。
数日後、年に一度の“火まつり”が行なわれ、達男は暴れまくった。
達男の家で、公園建設による土地問題について親族会議が開かれることになった。
火まつり以来、穏やかだった達男は、猟銃を用意すると、母(菅井きん)、妻、姉(八木昌子)、子供たちを次々と射ち殺し、自分の口に銃口を入れると、足で引き金を引いた・・・。


寸評
映画全体の雰囲気はあるのだがテーマがよく分からない作品だ。
海の開発問題が描かれるが、賛成派と反対派の対立や、自然破壊などがテーマとなっているわけではない。
達男は海中公園の建設に関しては、「海の底を見て何が面白いのか」と反対の立場の様で、古いままの村を守ろうとしているかのように見える。
一方で、古くからの因習にとらわれず神が宿る海で泳いだり、神聖とされる榊の木で動物を捕らえる罠を作ったりしているから、盲目的に古いままがいいと思っている風でもなさそうである。
彼はナルシスト的に自分は強い男だと思っているようで、女は抱き放題のような生活をしている。
まるで無軌道な若者のような暮らしぶりだが、彼にはれっきとした妻がおり子供もいるのだ。
この男の生き様が描かれていくのだが、そこから世界が広がりを見せるような所は感じ取れない。

舞台は紀州・熊野の神武天皇が上陸した土地ということで、林業に関わる人と漁業に関わる人が混在している。
喧嘩が絶えないという風でもなさそうだが、それでもお互いのいがみ合いは少なからず存在してそうである。
トシオが山の者と付き合っていると陰口をたたかれているが、両陣営が大立ち回りをやらかす場面はない。
海に重油がまかれて養殖ハマチが死滅する事件が起きるが犯人は分からない。
普段の態度から達男が疑われるが、どうやら彼ではなさそうである。
海中公園建設に反対している者の仕業か、海の者への嫌がらせなのか不明のままである。

淡路島に鳥飼八幡宮の大綱引きという祭り行事があり、里地区と浜地区に分かれて綱引きが行われる。
里が勝てば豊作、浜が勝てば豊漁といわれているらしいが、NHK番組によると今はどちらが勝っても、豊作、大漁ということで仲良くやっているとのことだった。
もしかするとある時期までは、里の人たちと浜の人たちは犬猿の仲だったのかもしれない。
その番組では漁師たちが海の栄養分を高めるために、人数が少なくなって水抜き作業が出来なくなっている溜池の水抜きを行い、底に貯まった栄養分を含んだ泥を川に流す作業を行っている事も紹介されていた。
山の養分が海に流れ込み、山と海は切っても切れない関係なのだ。
だからと言ってその事を訴えている風でもない。

基視子は借金の金策にこの町にやって来る。
かつて関係があった達男と体を重ね、若者とも関係を結ぶ性に対して奔放な女性である。
山川をだまして金を巻き上げ、さっさと大きな町である新宮へと去ってしまう。
人々にとってこの町とは何なのだろう。
ラストは達男が家族を殺し、自分も自決するという凄惨なシーンとなっているのだが、達男がここに至る理由がまったく理解できないので、余りにも唐突な行為に思え、結局この映画を分からないものにしていた。
難解な内容ということではなく分かりやすい内容なのに、僕にとっては、結局なんだったんだというフラストレーションを引き起こす作品なのだ。
北大路が雨の中で木に抱きついて何かを感じ、火まつりに参加し、そして散って行く。
関西人でもある僕には、世界遺産となっている熊野を舞台にした映画として記憶されている。