おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

BU・SU

2021-10-25 06:48:32 | 映画
「BU・SU」 1987年 日本


監督 市川準
出演 富田靖子 丘みつ子 大楠道代
   伊藤かずえ 高嶋政宏 イッセー尾形
   白島靖代 室井滋 伊織祐未
   輪島功一 中村伸郎 すまけい

ストーリー
18歳になる森下麦子(富田靖子)は片田舎で生まれ育ち、性格のひねくれた暗い女の子だった。
そんな“心のブス”を治すため上京し、置屋を営む叔母・胡蝶(大楠道代)のところで鈴女(すずめ)という名前をもらい芸者見習いをしながら高校に通うことになった。
しかし、ここでも鈴女はなかなか皆に溶け込むことができず、やがてボクシング部のヒーロー・律田邦彦(高嶋政宏)に思いを寄せることになるが、彼には京子(藤代美奈子)という校内でも評判のきれいな彼女がいた。
あるとき、置屋の老人・辰巳(はやしこば)がそんな鈴女を見かねて八百屋お七の墓へ連れて行った。
そして、これまで憎んでしかいなかった母・雪乃(丘みつ子)の過去を初めて聞かされた。
彼女の中で何かが少し変わり始めていた。
その頃、鈴女を可愛がってくれた売れっ子芸者の揚羽(伊藤かずえ)が駆け落ちした。
ショックは大きかったが、もう逃げるのはやめようと決めた鈴女は、半ば押しつけられた秋の文化祭での役割を引き受け、「お七」を踊ることにし、胡蝶の厳しい特訓が始まった。
しかし、一人では仕掛けが難しいのでネクラ派の友人二人に手伝ってもらうことにした。
文化祭当日、可憐に「お七」を踊る鈴女だが、最後のところでハシゴが壊れ、床に落ちてしまう。
思わぬ大失態に舞台の下で座り込む鈴女。
ステージでは次のプログラムであるアイドル・グループのピンク・ジャガーが登場し、華やかにショーが始まった。
すぐさま邦彦が駆け寄り、鈴女の手を取ってグラウンドへ連れ出した。
そしてファイヤー・ストームに火をつけ、炎の中に浮かぶ鈴女の踊る姿。
生まれて初めての解放感に彼女の表情は明るかった。


寸評
ブスと言っても容姿のことではなく性格が良くない女の子のことである。
性格が悪いと言っても富田靖子演じる鈴女はイジワルとかするのではなく、いわゆるネクラな女の子で人付き合いが上手くできないのである。
そのために主演でありながら富田靖子のセリフは非常に少ない。
しかしストップモーションやスローモーションを駆使し、鈴女の表情を捉えたカットを挿入して映像自体に独特のリズムを生み出している。
鈴女が秘かな好意を持っていることを匂わすように、一人で教室の窓から校庭でふざける邦彦を眺めるシーンは印象的なものとなっている。
よくあるような秘めた気持ちで眺めているだけではない、その間にフラッシュ的に彼女が思い浮かべているのであろう父親の姿がカットインされるので、ちょっと意表を突かれたようなシーンとなっている。
雨の窓越しにとらえられた鈴女のアップも何かのポスターを見るようで美しい。

鈴女は揚羽の駆け落ちにショックを受ける。
自分には取れない女の意思を明確に示した揚羽によって、彼女の中に自我が目覚めてきたのだろう。
鈴女は電車の中に揚羽に似た女子高生を見て、降りるべき駅を乗り過ごしそのまま学校をサボってしまう。
あてどもなく街をさまようが、カメラがよくて何か響いてくるものがあるシーンとなっている。
伯母に命じられて人力車の後を走っているが、いつの間にか人力車の前を走るようになっており、鈴女の変化を感じさせるが、彼女の変化の集大成が文化祭での「八百屋お七」の舞である。
クラス代表としての出演を引き受けたこと自体が鈴女にとっては大きな変化だ。
踊る前の鈴女の顔がアップになり、カメラはグングン彼女の瞳に寄っていくと一粒の涙が流れる。
母への思いが変わったこと、自分を見出したことへの感動の涙だったように思うが、ドキリとするシーンだ。

普通の青春ものだと、彼女の必死の稽古が実り、彼女の芸に感動したクラスメートから大喝采を受けるパターンが想像されるのだが、この映画ではそうはならない。
ボクシングをやっている邦彦は、文化祭のイベント試合で喧嘩の傷が元で負けてしまう。
鈴女は踊りのクライマックスで大道具が壊れ落下してしまい、皆の嘲笑を受ける。
観衆は卒業生であるアイドル歌手の公演に熱狂し、鈴女のことなど気にかけない。
邦彦は彼女を引っ張り出しキャンプファイヤーの元へ連れて行き、積まれたマキに火を放たせる。
それはあたかも「八百屋お七」の火付けのようである。
燃え上がる炎は彼女が受けるであったろう拍手よりも、僕たちの心に響き渡った。
鈴女は全く笑顔を見せなかったが、ラストシーンで故郷に帰った鈴女が母親との会話で初めて笑顔を見せる。
性格ブスだった鈴女の明らか変化であり、彼女を代表とする若者たちへの青春賛歌である。

ところで余談なのだが、この映画には僕が務めていた会社が衣装提供していて、エンドクレジットで協力会社として紹介されている。
作品以外のことなのだが、そんなことでもハッピーになったから不思議。