おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

フェイク

2021-10-24 07:25:21 | 映画
「フェイク」 1997年 アメリカ


監督 マイク・ニューウェル
出演 アル・パチーノ
   ジョニー・デップ
   マイケル・マドセン
   ブルーノ・カービイ
   ジェームズ・ルッソ
   アン・ヘッシュ

ストーリー
FBI捜査官ジョー・ピストーネは囮捜査官として、マフィア組織に潜入することを命じられた。
彼の潜入名はドニー・ブラスコ。
マフィアとの接触を狙っていた彼が最初に近づいたのは、末端の気さくな男レフティ・ルギエーロだった。
当時、マフィアファミリーは、リトル・イタリーを拠点とするソニー・レッドの組と、ブルックリンを拠点とするソニー・ブラックの組と、2つの組が対立して存在していた。
後者に属していたレフティは出世とは縁がない男だったが、そんな彼の前に現れたのがドニーで、レフティは聡明で行動力に溢れた彼との出会いに、諦めていた昇進の夢を再び抱くようになる。
また、誠実な彼にドラッグに溺れる息子の姿を重ね合わせ、単なる弟分を超えた愛情を感じ始めていた。
レフティは、ドニーを組の上層部に紹介したり、マフィアの掟を教えるなど、親身に世話を焼く。
そんなレフティを足掛かりに、ドニーが仕掛けた盗聴器やビデオテープは定期的にFBIに渡され、作戦は着実に成果を挙げていた。
一方で、仕事の重責の中、彼の私生活の歯車は次第に狂い始めていた。
FBIから、行き詰まったマイアミの囮捜査の協力を要請されたドニーは、儲け話を持ちかけてソニー・ブラック一行をマイアミへおびき出すことに成功。
ソニーは廃れたバーを改装オープンして大金を掴もうとするが、開店当日に警察の手入れが入ってしまう。
レフティは「警察が来るのが早すぎる。この中に裏切り者がいるはずだ」と指摘するが、誰もドニーを疑う者はいなかったのだが・・・。


寸評
潜入捜査官のマフィアとの息詰まるようなサスペンスというよりも骨太な人間ドラマの趣が強い作品だ。
アル・パチーノ演じるレフティは組織の中では下っ端に属している。
軍隊が上官の命令を絶対としているように、マフィアの世界でも上の命令は絶対である。
レフティは実績を上げて昇格を目指しているが、服役中に家族などの面倒を見てやったソニーが自分よりも格上になってしまい、ソニーの命令に従わねばならない屈辱を味わっている。
サラリーマン社会と同じでマフィアの世界も出世争いがあり、昇格したレフティは中間管理職のような悲哀を味わっているように見える。
ドニ―は妻子をロスに置いてニューヨークの組織に潜入を果たす。
その為に3ヶ月に一度くらいしか帰宅できず、家庭は崩壊状態になっていく。
単身赴任のサラリーマンも同じような境遇だと思うが、ドニーは命がかかっている。
ましてや相手がマフィアなので、ドニー自体もヤクザのようになっていく。
妻は耐えられなくなっていくが、ドニーはもう後には引けなくなっている。
どんなに苦しくったって、責任ある仕事を引き受けてしまった以上は逃げ出すわけにはいかない。
重圧に押しつぶされた人は自殺の道を選ぶのだろう。
人は「死ぬ気になれば・・・」とか、「なにも死ななくても・・・」と言うのだが、そうはいかないのだ。
妻に何も明かさず暴力を振るうようになったドニーはどうかと思うが、それでも僕はドニーの言葉では言い表せない気持ちは分かるような気がする。
一方のレフティも息子をうまく指導できているとは言えないが、それでも生死の間をさまよう息子を心底心配する普通の父親像を見せる。
どちらも家庭に問題を抱えて苦闘している父親たちなのだ。

サスペンスとして潜入捜査の成果が次々と示されていく展開ではないが、マイアミのバーが摘発される頃から立ち遅れ感のあったサスペンス性が盛り上がってくる。
レフティは警察の動きの速さから裏切り者がいると指摘する。
この時点ではレフティはドニーが裏切り者だと思っていないのだが、いつ正体がバレるのかと緊迫感も出てくる。
ブルックリンを拠点にするソニー・ブラックが、リトル・イタリーを拠点とするソニー・レッドによって粛清されそうになる場面で一気に盛り上がりはピークに達する。
決着がついてからの出来事がスゴくて迫力十分だ。

ドニ―は30万ドルをやるので船を買って足を洗うようにレフティに言うが、レフティはその話に乗らない。
組織からドニ―がFBIの人間だと言われても、彼を信頼しているレフティたちは「ドニ―を知らなかったら信じるところだった」と、その時点でもドニーを信頼している。
それだから余計に裏切りを許せないのだが、レフティは「お前だから許す」と伝えるように妻に言い残して自ら粛清を受けに行く。
完全に二人の間に友情が芽生えていたということで、アル・パチーノは渋い。
彼らの家庭での出来事を描きながら、ゆがんだ友情で結ばれた男同士の人間ドラマとして秀逸な作品である。