「ゆるちょ・インサウスティ!」の「海の上の入道雲」

楽しいおしゃべりと、真実の追求をテーマに、楽しく歩いていきます。

「剣三郎物語-星の未来の物語-」(7)

2010年07月18日 | 過去の物語
「しかし、若、どうも精神面が鍛えられたようですなあ」

と、姫井は、手をあごひげの辺りに持って行きながら感心したように、話しています。

「太刀行きに躊躇がない。なにやら、会得したものが、あったようですな」

と、樹一郎も、感心しきりです。

「そうかなあ。斬っているときは、何も考えていなかったよ。自然と体が動いたんだ」

と、剣三郎も、不思議そうに話しています。

「自然と、体が、動く。それこそ、ある境地にたどり着いた証拠。いやあ、若、これから、ずんずん、成長されますぞ」

と、姫井は、うれしそうに、話しています。

「そのようですなあ。いやあ、また、さらに成長されたら、拙者なぞ、遠く置き去られてしまいますよ」

と、樹一郎は、苦笑しながら、話しています。

「自分では、なんだか、よくわからないけど、なんとなく、力を感じる・・・なんだろう、この感じ・・・」

と、剣三郎は、自分の手のひらを見ながら、不思議そうに話しています。

「なにかが、違うんだ・・・」

と、剣三郎は、自分の手のひらを見ながら、いつまでも、不思議そうにするのでした。


一行は、伯井の宿に着くと、食べ物屋と思われる店に直行します。

「拙者、腹がもうぺこぺこでござる!」

と、大人気なく、情け無さそうな顔をするのは、姫井です。

「まあ、ひと働きしたからな。仕方もない」

と、樹一郎は、苦笑しながらも、なんとなく姫井を憎めません。

剣三郎も、お腹がぺこぺこのはずですが、二人の前では、そんな子供っぽいしぐさなどできません。

「若、ここが、空いてます。こちらへ」

座敷席の一角を姫井はさっそく占領します。

「品書きは、あれか・・・」

と樹一郎は、目ざとく品書きを見つけ、さっそく勘案しています。

「若、ここは、小魚の天ぷらうどん、が、名物です。なかなかのものですよ」

と、姫井は、さすがに、旅慣れしているようです。

「ほう。姫井殿は、この店を知っているのか」

と、樹一郎は、訊ねます。

「以前、何度か、来たことがあるでな。おい、姉ちゃん、あの名物のうるさい親父は、どうした。今日も会いたくなって、きちまったんだ」

と、姫井はうれしそうに、注文を取りに来た娘に、聞きます。

すると、娘は、少し弱ったような表情をしますが、

「父は、先日、辻斬りに、会い、果てましたで、ござります」

と、丁寧なお辞儀をする娘です。

「なに!辻斬りとは、このような、大きくもない宿場で、どういうことだ!」

と、姫井はびっくりするやら、怒りがこみあげるやらで、自然、大声になってしまいます。

「辻斬り、と言いましても、それは、この宿場をとりしきる代官様が、おっしゃっていることで・・・」

と、娘は、それだけ、言うと、

「あの、すいません。今のは、聞かなかったことに・・・」

と、青ざめた表情です。

「なにやら、我々には知られたくない理由があるみたいですなあ」

と、樹一郎は、途中で、拾った、木の枝をかじりながら、話しています。

「気のいい、明るくって楽しい親父だったのに、なんで、あんな楽しい親父が、死ななくっちゃならねえんだ!」

と、姫井は、怒り心頭になりながら、目からは、涙をこぼしています。

「そんなにいい人だったの?」

と、剣三郎は、素直に、娘に、聞いています。

「父は、この宿場の顔役でもありました。この宿場をもっともっと発展させるんだ、と張り切っていた矢先でした・・・」

と、娘は、素直に、悲しそうに、話しています。

「あの親父が明るくしていたおかげで、皆、この宿場の、名物を食べに、ここに争って寄るようになったんだ。言わば、この宿場の恩人だよ」

と、姫井も、少なからず、この宿場の内情に詳しいようです。

「その恩人が、代官に斬られた、というわけか」

と、樹一郎は、ずばりと、代官の嘘を見破っています。

「なぜ、代官が、宿場を盛り上げた功労者を、斬るのかな?」

と、剣三郎は、素直に疑問を呈しています。

「功を横取りしたいか、その功を妬んだか。あるいは、その親父が、代官の秘密を知ってしまったか・・ですね」

と、樹一郎は、静かに、冷静に、事態を見ています。

「姫井。その親父さんの、仇をとらなくて、いいの?」

と、剣三郎は、傍らで泣いている娘のせつない表情を見ると、自分も同じ身の上だけに、ほっては、おけない心境になります。

「若、この娘に惚れましたか?」

と、姫井は、ずけりと聞きます。

「いや、そういうわけじゃないよ。ただ、気持ちがよくわかるから、誰か、仇をとってほしいだろうと、思っていると、思ってさ」

と、少し赤くなる剣三郎です。

「仇を、父の仇を、とってくれるんですか!」

娘は大きく目を見開くと、剣三郎に、くってかかるように、答えを求めています。

年の頃なら、十六、七歳。剣三郎より、二、三歳年上の、よく見れば、目の大きい、長い髪の毛も黒々とした美少女です。

「うん。とるよ」

と、剣三郎は、さらりとした口調で、静かに闘志を燃やしています。

「ま、若がそういうのなら」

と、樹一郎も、一度言い出したら聞かない剣三郎の気性を考えて、同意しています。

「ふむ。若がそういうのならな。それに、わしも個人的にかたきを取りたいと、考えていたところじゃ」

と、姫井も、素直に、同意するのでした。

「人生には、大切なことがある。それをひとつひとつ、見つけていくのが、この旅なんだ!」

剣三郎は、そうつぶやくと、少女のために、危ない橋を渡る覚悟を決めるのでした。



お昼を過ぎた「無音屋」に、久しぶりの客が現れていました。

「紗江さん、久しぶり。最近忙しくて、顔を出す暇も、なくてさ」

と、かわら版屋のお弓が、平賀源大さんを引き連れて、無音屋に、足を運んでいます。

「あら。あら。これは、久しぶりね、お弓ちゃん。相当な活躍だって、うわさに聞いているわよ」

と、紗江さんも、この妹のような、お弓ちゃんに好意を持っているようです。

「いやあ、貧乏暇なしでねえ。いろいろ、忙しくなっちゃって、ここに顔を出す暇すらないんだもの。困っちゃうわ」

と、そこは忙しいことをうれしがるお弓さんです。

「で、今日は、どうしたの、突然?なにか、わたしに聞き込みしたいことでも、あるの?」

と、紗江さんは、お弓さんの商売のことを考えながら、聞いています。

「この源ちゃんに、なんでも、紗江さんが、新しく子供を、引き取ったって、聞いたからね」

と、お弓さんは、素直に理由を説明しています。

「なんでも、紗江さんは、明るくなるし、板場も明るくなったし、いいことずくめだって、言うから、どんな子供を引き取ったのか、この目で、見てみたくなってね」

と、お弓さんは、正直に、その思いを話しています。

「引き取ったっていう程のことじゃ、ないんだけどね。でも、明るくなったのは、事実ね・・・」

と、素直に感想を述べる紗江さんです。

「うん。わかったわ。今、呼んでくる。しかし、源さんも、速いわね、口が・・・」

と、笑う紗江さんです。

「いやあ、こういういい話は、速く回っていくものなのさ」

と、笑う源大さんです。

「ちょっと待っててね。今、呼んでくるから」

と、紗江さんは、うれしそうに、奥の剣三郎の部屋へ行きます。

「剣ちゃん、ちょっと出てきてくれる。ちょっと剣ちゃん」

と、部屋の外で、戸の向こうの剣三郎に、声をかける紗江さんです。

「剣ちゃん、ちょっと、剣ちゃん!」

と、戸を開ける紗江さんです。

しかし、部屋の中は、もぬけの殻。

「剣ちゃん、朝、身勝手なことは、しないって、約束したのに!」

と、紗江さんは、混乱しています。

「剣ちゃーん、剣ちゃーん」

と、部屋中、そして、かわや、自分の部屋まで、いたるところを紗江さんは、探し回りますが、

剣三郎は、どこにも、見当たりません。

紗江さんは、混乱しながら、玄関に戻ってくると、

「あの子がいないの・・・」

と、膝から崩れて落ちてしまいます。

「剣ちゃん、どっかに、行ってしまった・・・」

と、青ざめた表情の紗江さんです。

「何だって?」「どうしたの、女将!」

と、源大さんも、お弓さんも、混乱しています。

剣三郎は、無音屋から、忽然と消えてしまったのでした。


庭には、昼顔が、咲き誇っていました。

(つづく)


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