さて、その時、僕は、イケメン貴島くん(29)と辛辣姫ユキちゃん(28)、
若いミユウちゃん(25)、若い池澤くん(24)とお酒を飲んでおりました。
「あのー、僕ちょっと聞きたいんですけど、女性と二人きりになると、どうも上手く話せないんですよね」
「まあ、普段から、そんなに話も上手く話せないんですけど、女性と二人きりになると、さらにダメで」
「これってどうしたら、いいんすかね?」
と、池澤くんが聞いてくる。
「おまえ、女性と二人きりになりたいの。そうやって仕向けてるの?」
と、貴島くんが聞いています。
「いや、そういう事じゃなくて、流れ的に、いつの間にか、二人になってるパターンとかですよ」
「そうやって仕向ける程、俺、自分に自信があるわけじゃないし」
と、池澤くんは頭を掻きながら、話しています。
「俺、女性と二人になると、何を話していいかわからなくて、変な沈黙に入っちゃったり」
「意味の無い事をしゃべっちゃったり・・・あーいう時ってどうすればいいんですかね?具体的に聞きたいんですけど」
と、池澤くん。
「池澤くんは、そういう時、どんな話をするの?」
と、ユキちゃんが聞く。
「いやあ、なんか、変に照れちゃうっていうか、そういう時って、頭真っ白になっちゃうんですよね」
「で、変にため息とかついちゃったりして、「わたしといると退屈?」なんて言われちゃったりして、相手に気を使わせちゃって」
と、池澤くん。
「結局、話盛り上がらなくて、「わたし、用事思い出したから、帰るね」って言われたりして、終了な感じなんですよね」
と、池澤くん。
「うーん、っていうか、おしゃべりとしては、何を話しているの?」
と、ユキちゃん。
「え?それは・・・僕が普段読んでる漫画の話とか、ゲームの話、アニメの話とか・・・趣味の話全般ですかね」
と、池澤くん。
「うーん、それって、相手の女子、楽しそうに聞いてる?」
と、ミユウちゃん。
「いや・・・静かに聞いてるような感じですけど、俺、あんまり、おしゃべりしている時・・・特に女性の場合」
「あんまり、顔を見れないっていうか・・・目を合わせられないっていうか」
「・・・返ってくる言葉で判断しているようなところがあるんすけどね」
と、池澤くん。
「相手の表情を見ながら、話したりしないの?」
と、辛辣姫。
「結果的には、見てないかもしれませんね」
と、池澤くん。
「どう思う?ミユウ」
と、ユキちゃん。
「うーん、あんまり、よろしくないんじゃないですか?」
と、ミユウちゃんが言葉にする。
「それって、まずいすかね?」
と、池澤くん。
「だって、相手と視線を合わせて話すのは、礼儀だって教わらなかった?」
と、ユキちゃん。
「はあ、やっぱそうすよね・・・でも、なんか視線合わせるの、怖くて・・・」
「こっちが視線を向けた時に、相手が視線外してきたら、どうしようって思っちゃって・・・」
と、池澤くん。
「それはそうだけど、まずは、トライしてみないと何も始まらないわよ」
と、辛辣姫。
「ま、それはそうなんですけどね」
と、池澤くん。
「わたしが、まず指摘出来る事は・・・さっきの「用事があるから、帰るね」って言うセリフなんだけど・・・」
「これ、わかりやすく翻訳すると「あなたと二人でのおしゃべり試してみたけど、やっぱり今回もダメだったわね」って事よ」
と、ミユウちゃん。
「え?そうなんですか?」
と、池澤くん。
「それはそうよね。ただ、指摘出来る事は、相手の女性はそれなりに池澤くんに期待して」
「チャンスを与えていると言う事なんじゃない?まるっきしダメだったら、チャンスすら与えないのが女性だもん」
と、辛辣姫。
「それはそうかも・・・ただ、駄目出しされているのは、確か。だいたい自分の趣味の話ばかりして」
「相手の女性が食いつくとでも思ってる?」
と、ミユウちゃん。
「え?そうか・・・僕は自己紹介のつもりだったんだけどな」
「僕、こういうのが好きなんだ・・・的な」
と、池澤くん。
「女性はね。基本的には、相手に構って欲しい人間なの。つまり、自分の事をおしゃべりの中心においてほしいの」
「よく父親が娘に「今日はどんな事があったの?」って質問するシーンがあるじゃない?女性は基本、あれを期待しているのよ」
「もっともそれは、父親のように、話したい相手に話しかけられた時に限るけどね」
と、ユキちゃん。
「え?って言うと、話をする前に相手の女性に、選別されるって事ですか?オトコは」
と、池澤くん。
「そういう事。だから、池澤くんに聞くけど、女性と二人きりになるシチュエーションって、結構多いの?池澤くんは」
と、辛辣姫。
「いや・・・半年に一回あればいいほうかな。だから、たまにそういう事になった時くらい、上手くおしゃべり出来ればなーっと」
「そう思っているんですけど」
と、池澤くん。
「さっき、自分から仕掛けて二人きりになれているわけではないって言ってたけど・・・」
「それってやっぱり偶然なの?相手はいつも同じとか・・・そういう事はない?」
と、ミユウちゃん。
「え?それは・・・いつも遊んでいるメンバーは割りと一緒ですから・・・その相手の女性はだいたい同じ女性になりますね」
と、池澤くん。
「ふーん、それって、相手の女性、池澤くんに気があるんじゃない?」
「なければ、二人きりになんて、そもそもならないし」
と、ユキちゃん。
「え?でも・・・」
と、池澤くん。
「もしかして、池澤くんに、その気がないとか?」
と、ミユウちゃん。
「えーと、その気がないって言うより・・・そういう目で見たことがないって言う方が正しいかな」
と、池澤くん。
「それってどんな女性?」
と、辛辣姫。
「同期で入った子ですけど、あんまりおしゃべりしない子で・・・僕もその子の性格、あんまりわかっていないんですよ」
「ただ、同期グループにいて、何人かの女性と一緒にいるから、なんとなく、同期の会では、一緒になるけど・・・その程度」
と、池澤くん。
「ふーん・・・まだ、なんにも始まっていないって、そんな感じかしら?」
と、ユキちゃん。
「そうですね。まだまだ、様子見と言った・・・そんな感じのようですね」
と、ミユウちゃん。
「でも・・・その女性にその気があるなら、半年に一回って事、ないんじゃないのかな」
と、貴島くんがポツリと大事な事を指摘する,
「あ、そっか・・・」「それはそうかも・・・」
と、ユキちゃんとミユウちゃん。
「ま、いざと言う時の為に女性とのおしゃべりについての準備をしておくのは男性として、悪くないと思うけどね」
と、僕もその話にしれっと食いついた。
「いや、だから・・・僕はその子とどうにかなろうと言うんじゃなくて・・・将来的に、ユキさんやミユウさんや」
「そういう聡明な女性と対等におしゃべりが出来るようになりたいから・・・そうなるにはどうしたらいいか、聞いているんです」
と、池澤くん。
「そうねー。ミユウはどう思う?この話」
と、辛辣姫。
「うーん、まず、池澤くんは、もう少し魅力が必要なんじゃない?女性とのおしゃべりって、まず、女性の方が」
「「この人とおしゃべりしたい!」って思わない事には、実現しないものだし・・・」
と、ミユウちゃん。
「え?どういう事ですか?」
と、池澤くん。
「女性は男性に対して、二つの評価をするの。それは簡単で「あ。この人、素敵!ずーっと視界に入れておきたい!」って思う男性と」
「「この人、視界にすら、入れたくないわ」って評価する男性の二つに分かれるのよ。そして、女性は、視界に入れたくない男性は」
「即、記憶から消してるわ。だから、その女性にすれば、視界に入れたくない男性は、この世に存在しない事になるの」
と、ミユウちゃん。
「わたし、人の記憶って、その時の感情とセットになって記憶されていると思っているの。だから、年が経つと」
「不快な記憶が消されて、楽しい時の記憶ばかり残ると言うのは、記憶と感情がセットになっているから・・・だと思っているの」
「そして、それは、現在進行中の好ましい男性との思い出・・・それを記憶する為の領域を確保するためのものだと思っているのよ」
「だから、視界に入れたくない男性は、当然、真っ先に記憶から消され、忘れる事になるの」
と、ユキちゃん。
「だから、女性と二人きりでおしゃべりがしたければ・・・その女性に「この人と二人きりでおしゃべりがしたい!」って」
「まず、思われなければ、当然、実現しない話なのよ・・・」
と、辛辣姫。
「そう。女性にそう思われるには、池澤くんは、まだまだ、魅力に乏しいかな」
と、ミユウちゃん。手厳しい。
「それと、もうひとつ言えば・・・池澤くんは、ちょっとまだ、人間的に頼りがいがないかな」
と、ユキちゃん。
「まあ、逆に言えば、年上の女性に甘える事が出来るって事にもなるけど・・・それも、ちょっとあれかな」
と、辛辣姫。
「え、どういう事です?」
と、池澤くん。
「女性って、自分が甘えられるにしろ、自分が甘えるにしろ、相手の人間性の大きさを求めるものなのよ」
「まあ、母性本能をくすぐられて、男性を甘えさせてもいい場合、人間性が小さくてもあえて、甘えさせる事もあるけど」
「それでも、相手が好ましいと感じなければ、絶対に甘えさせる事はないわ。まあ、その女性自身、どれくらい人間性が大きいか」
「にもよるけど・・・」
と、ユキちゃん。
「端的に言えば、人間性の大きい男性は好まれるけど、人間性の小さい男性は好まれない・・・そういう事よね」
と、ミユウちゃん。
「女性が男性を好ましいと感じるのは、やっぱりかっこよく感じないと・・・あとはその上に頼りがいがあると言う事かしら」
「それは本能的に女性が感じるから・・・本能的に説得される事が重要なのよね」
と、辛辣姫。
「池澤くんって、女性と二人きりになると、心理的にバタバタしない?」
と、ミユウちゃん。
「ああ、それは当然ありますよ。普段、慣れていないシチュエーションだし」
と、池澤くん。
「でもさ、ゆるちょさんはわたしと二人きりとか、御島さんと二人きりとか、よくあるけど、全然バタバタしないわよ」
「春風にあたりながら、のんびりと昼寝している大型犬のように、おっとり構えているわ」
と、ユキちゃん。
「おいおい、僕は大型犬だったのか。にしても、僕と池澤くんを直接比較しても、あまり意味はないんじゃない?」
「社会に出てから、の経験量が全然違うんだし」
と、僕。
「ま、それはそうですけどね」
と、辛辣姫。
「池澤、お前、女性と二人きりになるとバタバタするって言うけど、女性の方はどんな感じにしてる?」
「もしかして、難しそうな顔していないか?」
と、貴島くん。
「あ、そうですね。あまりいい表情をしていないのは、確かなんですよ。不安そうな顔をするって言うか・・・」
「貴島さんやゆるちょさんのように、場にいる女性が笑顔で・・・しゃべりやすい雰囲気をしているのとはまるで逆なんです」
と、池澤くん。
「女性と言うのは、経験も豊富で、なにより、本能的に強いオスの個体が目の前にいると・・・もちろん、やさしい個体である事が」
「わかっていると、本能的に安心するんだよ。だから、自然笑顔になるし、おしゃべりもしやすくなるんだ」
と、貴島くん。
「ゆるちょさんが場にいると、その場は安定するし、皆笑顔になるだろ。それはゆるちょさんの本能のチカラが半端無く強いからだ」
「だから、皆、安心する。だが、池澤ひとりが場にいても、安定しないどころか、皆不安になる。それは池澤が」
「経験も少ないし、まだまだ、本能的に弱い個体だからだ。だから、場は不安定になるし、女性は不安顔になる。だから、おしゃべりも生まれない」
「そういう理屈なんだ」
と、貴島くん。
「え、じゃあ、僕ってまだまだ、女性と二人きりで話せる人間じゃないって事ですか?」
と、池澤くん。
「それは違うわ。女性が池澤くんに恋したら、別だもの。ゆるちょさんや貴島さんのレベルに達するには時間がかかるし」
「そういう場を作れるようになれる人間は、わたしが見たところ、一握りだもの。だから、池澤くんは、まず、女性に恋される」
「あるいは、愛されるパーソナリティを作る事が先決なんじゃない?」
と、ユキちゃん。
「だって、ゆるちょさんって、20歳の頃から、素敵な女性に恋されていたんですものね?」
「リアルお姫様に・・・」
と、辛辣姫。
「ああ。あの頃はまだまだ、人間性も小さかったし、それこそ、社会的経験はゼロに近かったから」
「・・・それでも恋してくれる素敵な女性はいるもんさ」
と、僕。
「そうなんですか・・・その体験を聞くと、なんだかホッとするな。僕でもやれるんじゃないかと思えるし」
と、池澤くん。
「まあ、それでも、経験豊富な事が、女性に恋される一つの要素になることは確かだぞ」
と、貴島くん。
「そうね。ゆるちょさんに言わせれば、たくさん恋してたくさんフラレろ・・・そうすれば、男性はドンドン成長して」
「本能的に強くなれる・・・痛みは当然伴うけど、その痛みが治癒することが自分の成長につなるんだから」
「恋することに臆病になるな、絶対に!ってところですよね?・・・ね、ゆるちょさん!」
と、ミユウちゃん。
「ん?ああ、まあ、そういう事だね」
と、僕。
「まあ、池澤は、愛されるパーソナリティをまず作る事かな、準備としてはさー」
と、貴島くん。
「えーと、それって具体的に言うと、どういう事でしょう?」
、
と、池澤くん。
「皆まで聞く気なの?まあ、いいわ。池澤くんって、今の自分の要素で、好きなところある?」
と、辛辣姫。
「いやあ、俺、ナルシストじゃないすから・・・自分に好きな所なんて、そうそうないっすよ」
「強いて言えば、素直でやさしいところくらいすかね・・・でも、それって気の利いている人間なら、誰でもそうだし・・・」
と、池澤くん。
「まあ、でも、そこから始めるのね・・・とにかく、自分を磨いて、少しずつ、自分の好きな所を増やしなさい」
「自分の嫌いな部分は、他人も評価しないわ。人に愛されるのは、自分で評価出来る部分がたくさんあるオトコよ」
「それは確かだわ・・・」
と、ユキちゃん。
「それに、池澤くんは、いつも自分の事ばかり考えているでしょ?」
「たまには、目の前の女性の事を考えてあげたら・・・自分よりまず先に相手の事を思いやるようになれば」
「少しは変わるような気がする」
と、ミユウちゃんも言った。
「それは大事な事よ」
と、そこに御島さん、登場。
「この日本では、まず、相手がどんな気持ちでいるか・・・まず、それを考えるようにしなさい」
「自分の事なんて、後回しでいいのよ。っていうか、自分が、自分がって、言う人間はこの日本では永久にしあわせになれないわ」
と、御島さん。
「この日本の最高正義は「和を以て貴しとなす」だから、周囲の和を考えられない、自分勝手なだけの人間は不幸になる・・・でしたよね?」
と、ユキちゃん。
「そういう事。自分勝手が許されるのは10代までだわ。それは子供のする事だもの。まず、相手の事を思いやれる人間になること」
「それがこの日本において、まず、大人になるって事じゃないかしら?最低限の、ね」
と、御島さんが結論的に言い抜いた。
「まあ、結局、最初はやさしさが武器になるのかもね・・・」
「でも、やさしさだけでは、男性として認められないけどね」
と、辛辣姫。
「そうですね。やっぱり個性が大事ですよ。「価値とは他人と違った所にまず宿るモノ・・・」ゆるちょさんの受け売りですけど」
「そういうモノだとわたしも思いますから」
と、ミユウちゃん。
「オリジナリティーって事っすね・・・まあ、道は通そうだけど、やり始めるっすかねー」
と、池澤くんは、少し遠い目をした。
(おしまい)