ヒマローグ

毎日の新聞記事からわが国の教育にまつわる思いを綴る。

怖がりばかりに

2024-05-29 08:31:09 | 我が国の教育行政と学校の抱える問題

「懸念」5月24日
 『クレームの声 AIが緩和 ソフトバンク新技術 怒りや嫌味学習し変換』という見出しの記事が掲載されました。『「カスタマーハラスメント」対策として、ソフトバンクが人工知能を使った新技術を開発している』ことを報じる記事です。
 記事によると、『電話でのクレーマーの音声を穏やかに聞こえるように変え、オペレーターの心理的負担を和らげるもの』だそうです。『文言はそのままだが、声の高さや抑揚を穏やかなものにする』とのことですが、少し心配です。
 私が指導主事として教委に勤務していたころ、保護者や市民からの苦情電話への対応が新米指導主事の仕事でした。6時間対応し続けたこともありました。その中で私は、相手の「理屈」とは別の「感情」への理解こそが重要だと学びました。相手の感情に配慮しつつ、相手の指摘する事実や論理については、きちんと反論すべきは反論するという芸当を身に付けていったのです。
 電話での対応については、この新技術が役に立つかもしれません。しかし、直接対面での苦情や過大な要求の場合はどうでしょうか。新年度の4月1日、私が先任の指導主事になった初日、ある区民が指導室に怒鳴り込んできました。校長の事例伝達式の時間帯で、他の職員はその準備で走り回っていました。私は、窓口で怒鳴り続ける男性を、奥のテーブルに招き入れ、対応しました。
 苦情の内容は、某区立中学校の生徒が煩くて眠れない、仕事に差し支える、賠償金を払えというものでした。校長は何もしない、教委も何もしないで済ますつもりかとフロア中の職員が振り返るような大声で怒鳴り続けます。
 私はお茶を勧め、十分に話を聴いた後、いくつか質問をし、関心をもっていることを示し、その後相手の顔を見て、「お話を伺った限りでは、あなたの要求には応じられません」と断固として断り、「ご不満でしたら、法的な手段に訴えていただいても構いません。私どもとして望むところではありませんが仕方がありません」と続けました。
 男性は立ち上がり、私の顔の前に自分の顔を近づけ、睨みつけてきました。私は「これ以上大声で威嚇する行為を続けられるのであれば、脅迫行為として警察を呼びます」と言い、席に残っていた女性の事務職員に、「○○警察生活安全課の▽▽係長に、いつもお世話になっています、これから脅迫行為を止めない男性と署に伺いますと電話してください」と言い、「さあ、一緒に行きましょう。そこであなたの要求をもう一度はっきり言ってください。どちらの言い分が正しいか判断してもらいましょう」と言って立ち上がりました。
 男性は「そんな大事にしたいわけじゃないんだ」とつぶやいて帰っていきました。もし、AIで加工された穏やかな声に慣れてしまっていたら、男性の怒声や迫力ある顔、どんどん机を叩く行為に頭が真っ白になってしまうのではないでしょうか。
 教員は公務員であり、学校は教育行政の一機関です。市民や保護者からの苦情や要求、ときには恫喝気味に押し掛けるメディアまで、対面で適切に対応することが求められています。新技術が、市民が押し掛けていたら隠れてしまうような教員を生まないか、懸念されます。

 

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