私は山崎正友を詐欺罪から救った! -- 2002/05
--アウトローが明かす巨額“手形詐欺”事件の真実--
-------(前回、49P)--以下、本文--
第2章 詐欺
1 取り込み詐欺
そうこうしているうちに、昭和五十五(一九八〇)年の一月、二月と時が経ち、当然のこととして、私の手駒の仕事師達が仕入れ時に支払った手形の決済日が、到来しつつあった。
本来、この決済資金は、仕入れた商材の売却代金で賄うのが当然である。ところが山崎のやることは、どこまでいっても素人であった。
というのも、私たちの仕事はシーホースグループの仕入れを担当したが、販売は一切手伝っていない。私たちが苦労して買い集めた商材の販売代金も手形で売りさばき、その受取手形が不渡りになることまでは、私たちの関知するところではなかった。
そうした実態を聞かされたのは、受取手形が不渡りになった後のことである。あまりの馬鹿馬鹿しさに、ただあきれるだけであった。
また、その一方で前年の暮れごろから私が買い集めて、山崎に渡した「売り手形」も、順次、その決済期日が到来し、次々と不渡りになっていた。
時間が経てば経つほど、また、商いをすればするほど、シーホースグループは窮地に追い込まれ、銀行以外の金融業者での割引融資も滞り始めていた。
私たちも、このままでは利益を得ることができず、次第に仕事師達からも苦情が出始めてきた。その頃山崎も順調に商品の購入ができなくなり、かなりイラついて私にハッパをかけてきた。
「塚ちゃん、もう少しがんばって仕入れてくれ、儲けはそれほどなくていいんだよ。ものさえ動けば」
「先生、そんなこと言ったつて、もう手形の信用がガタガタになってきてるもの。そんなに買えるものでもないや。
そんなことよりも、せっかく、俺達が仕入れてきた品物を売った先から集金する手形がパンクするならば、買い手形も一緒じゃないの。手間暇かけずに、買い手形一本でいったって、先生にとってみれば同じ手形でしょ。
できるだけ良質な手形を仕人れくれるから、先生はそれを銀行に持って行けばいいでしょ。品物を売った手形も、手形を買った手形も手形には変わりないよ。それの方が、原価もかからず手間暇もかからず、額面だけなら何億でも何十億でもできるよ」
この話を私から聞いた山崎は、初めのうちはその意味がわからなかったようである。そこで私は、もう少し具体的な例を上げて説明した。
「先生。先生は、今までにも私が手助けして買い付けた手形は、銀行へ持って行って、“この手形は買い手形です”と言うのですか、そんなこと言うわけないでしよう。商いで集金した手形だと言うはずですよね。
では、本当の商いでの手形は、これも同じ説明のはずですよね。
どんな手形でも、印がない。そして本当の商いで、手に入れる手形が不渡りに成ることもよくあることですよね。
この場合でも、先生はこの手形を買い戻している。それは、別の手形を差し入れてやる場合も同じことですよ。
しかし、本当の商いの場合には、仕入れる先様には現金か手形かは別としても、元手の資金はかかります。
たとえば、百万円で仕入れた商材に利益を十万円プラス経費を十万円、百二十万円で売却できたとしても、集金してきた手形が不渡り手形となってしまったら、経費十万プラス仕入れの元金百万円は、丸々損害である。
ところが、まあ、先生の場合は、どんな手形でも銀行に持ち込めば金利を少々払うだけで、万が一不渡りになっても、銀行の債務残高が少々増えるだけで、たいした損害と考える必要がないのですね。
それだったら、私が言うように、商売は表向きだけのことにして、買い手形で済ませる方がはるかに有利です。手間暇かけず、売り手形を買い、これを商手(商業手形)とでて銀行に持ち込んだ方がいい。
そして、たまには上場クラスの手形を買って、買い手形の中にこの上場クラスの手形を混ぜて銀行に持ち込み、わが社はこのように、大手の会社との取引があると見せかけでおけば、大丈夫ですよ」
どのみち山崎は、売り手形をさんざっぱら使っていたんだから、今さらこれが少々せえたことになっても大差があるわけではない。むしろ本業などしない方が、シーホースか赤字が増えるのを押さえることになるはずだ。
そして私は、山崎に上場クラスの手形の仕入れ方も伝授し、彼はこの方法を採用した。
昭和五十五年三月中旬頃のことだ。
この日も山崎から呼び出しがあり、私は事務所の目の前にあるホテルニュージャパンの喫茶室で彼と二人だけで会った。この時に初めてシーホースの現状を打ち明けられた。
「このままの状態では、早晩シーホースは倒産する。倒産はすでに覚悟はしていたが、このまま倒産した場合、多くのところに迷惑が及び、塚ちゃん達にも迷惑がかかる。どうしたらいいか相談に乗ってくれ。少々ヤバイことになってもかまわない。なんとかならないか」
と、かなり憔悴した様子で、山崎は言った。
すでにシーホースの商売のやり方を見てきた私には、営業方針や、買い手形での資金り、売掛金の不渡り等々で、いずれ近いうちこのような状況になることは読めていた。そこまで追い込まれなければ、本当の意味で、私たちのような仕事師のシノギの場にはならない。
いよいよ、私の目論見通りの時が訪れた。シーホースで取り込み詐欺が働ける状況が生まれたのだ。そこで私は、山崎に言った。
「どうしても駄目だと先生が見切りをつけて諦めることができるのなら、何か考えなければならない。そのためには、先生の方でもなんとか無理をして二、三力月間、倒産を延ばしてもらえないか。
これを引き延ばすことができるなら、その間にシーホースの手形で、私らが不動産を始め、できるだけの商材を買い集める。
先生は、この不動産を担保に銀行から金を引き出せ。今ならまだシーホースの手形が使える。乱発が銀行にバレると、信用照会で駄目になる。先生はできるだけ銀行には上手く話をつけてくれ」
と、話を持ちかけた。山崎は、私のこの話を待っていたようだった。悪知恵の回る弁護士先生のことだ、最初から、全部お見通しだったにちがいない。
ただし、念のために山崎に付け加えた。
「最終的な責任は丸尾に負わせられるように、よく話をつけておいてくれ。さもないと後で、詐欺で刑事事件となってしまう。私のいう通りに踊ってくれれば、民事事件ですむはずだ」
そして、この不動産を銀行に担保として入れる方法は、山崎がもつ肩書ならではの仕掛けである。創価学会の関連企業だと信じ込んでいる金融機関を騙すのだから、それはさほど難しく考える必要はなかった。
そして、この方法はシーホースの場合、一石二鳥か三鳥の効果を狙った、私の仕掛けである。
売り手形の割り引きが増える。そのために不動産を担保として差し入れるのであり、この不動産を買うためには、たくさんの手形が必要である。
持ち込む手形が多くなるということは、シーホースの商いが多くなつたように見せなければならない。そのためには、仕入れで支払う手形がたくさん必要になる。手形用紙をたくさん発行させるためにも、この仕込みが必要である。
この仕事は荒っぼいことになるので、仕事の報酬は、私の方で仕入れた商材を現物のままで折半、不動産の場合には、借入金の半分を私たちの取り分とする。
また、手形を不渡りにするのは、あと数力月、最低七月の末までは持ちこたえてほしい。
この条件を全部呑めるなら、私たちが体を張って勝負をかけてもよい、と私は気構えを示してみせた。
「不動産も手形で買えるのか、不渡りになつた場合どうなるのだ」
山崎は、不動産の手形売買に興味を持ったようだった。私は説明した。
「俺は不動産の資格をもったプロだよ」
不動産の場合、停止条件付売買契約を結び、支払い手形が万一不渡りとなった場合には、元の所有者に戻るようにする。
そして、今度の場合には銀行が担保に取る。あとで、裁判になっても、百パーセント銀行の方が負ける。したがって、元の所有者は損害を受けることがない。
不動産を買う場合、売り手形を使えば百パーセント刑事事件となるが、今度のようにシーホースの手形で買う場合には、民事で逃げられることの方が多い。
そのためにも二、三回は手形を決済して、元の所有者にいくらかの金が入るようにしてやればいい。一銭も遺らないと、計画をばらされる恐れがある、などと説明した。
これは取り引き銀行に、損害のすべてを押しつける詐欺である。不動産を手形で買い、この不動産を担保に金融機関から融資を受ける。
この事案は、融資をした金融機関が被害者になることを、初めから決めて取りかかる詐欺であり、元の所有者も共犯関係で仕組む、取り込み詐欺である。
こうした詐欺は、利用できる不動産を抱えている仕事師と組むことで成立する大仕事である。また、不動産を手形で買うために、手形の振り出し銀行に、振出人の信用がなければならない。このことは山崎ならではできる仕事であった。そしてこれは、山崎がもつ背景を利用した仕掛けである。
通常、不動産の売買は、現金取引が当たり前であり、これを手形で売るということは、普通の取り引きとは違う。事件になった時、なぜ手形で売ったのかが裁判の争点になる。
当然、この点があいまいな場合、売り主側が不利となる。しかし、売り主側が手形の振り出し銀行に、きちんと信用照会をして、その信用を確認してさえあれば、それですんでしまう場合が多いのだ。
シーホースの場合では、これまでの営業実績や創価学会の関連という後ろ盾があり、信用照会に銀行が答えていた信用度は、それまでの経験から充分に満たされたものだった。
それゆえ私は、シーホースの手形で不動産を買うことを山崎に勧めたのである。
さらに、創価学会の顧問弁護士の山崎が銀行に持ち込めば、担保となる不動産の価値に見合つた資金を引き出すことが、充分に可能なことも見込んでいた。
シーホースを舞台に取り込み詐欺を働き、計画倒産にもっていくという案に乗るかどうかは、山崎自身の判断にゆだねた。--が、やはり山崎は当初からそのつもりだったのだろう。
私の提案に、待ってましたとばかりに飛びついた。
「よくわかった。シーホースは七月の末まではもたせる。塚ちゃん達の報酬としての分け前のことも、その条件で俺の方はよい。
ただし、シーホースの社長を丸尾から坂本に変える。丸尾の場合だと俺の義弟で、何かとつらいことが多すぎる。それに、坂本の方がいざという時には根性がある。もうすでに、ある程度のことは坂本に話してある。坂本も承知している。
ただ、この仕事はうちの連中ではできない。塚ちゃんの方で全部仕切ってくれ。シーホ一ースの手形は、塚ちゃんが言う通り幾らでも振り出す。銀行からもできるだけ多く手形帳を取り寄せておくが、どの銀行が良いかな。
今のところ富士銀行の小舟町が一番良いのだが……。あそこの支店長が一番扱いやすい。もちろん他の銀行からも手形は取り寄せておくよ」
と、山崎は浮かれたように話していた。結局、これでシーホースを舞台にしての取り込み詐欺の計画が、私と山崎の間で確定したことになる。そして私も、この富士銀行が一番望ましいと考えていた
---------(76P)-------つづく--