桃を見ると山上鎮夫さんを思い出す。
果物はなんでもお好きだったが、特に桃を好まれた。
小さな桃がで始まる。待ちに待った様な懐かしい人にあったような感動である。
だんだん大きくなりうつくしくなってゆく。それは少女がだんだん美しくなっていくように。
梅雨の頃から初秋まで相当長い間楽しめる。
無論美しいばかりではない。美味しさも素晴しい。
桃丸し 桃ぞ美わし 桃美味し
桃くふ 小さき喜び 多き幸
老いければ 真赤な桃を 賜いけり
合掌の 一条あわれ 白き桃
桃の皮 うすく大きく 剥きにけり
桃むけば いよいよ丸く 真白にぞ
もぎたての 真っ赤な桃や 露しとど
脚細く両手に桃を下げてゆく
山上鎮夫著、句集・随筆「草の実」(昭和61年)より。
山上さんは眼科医だが古美術のコレクターとして知られた。
多忙なな診療の合間にクラッシク音楽の鑑賞、俳句、山登り、水墨画を描き、てびねりの陶器制作など広い趣味をお持ちだった。
特に、山川に遊び、草木を心から愛する大自然の信奉者であった。