ーーこの翻訳は「不便なコンビニ」の一部を紹介するものです。勉強と趣味を兼ねています。営利目的はありませんーー
不便なコンビニ(キムホヨン短編集)
著者 キム・ホヨン
山海珍味弁当2
ソウル駅に到着して空港鉄道に下りて行くエスカレーターを見つけた。エスカレーターで下りて行くと、前方の右側にGSコンビニがあり、熊の声を持った男が弁当に顔を埋めたまましゃがんでいた。近づくほどはっきりする彼の実体に、彼女は再び緊張の紐を握りしめた。モップのように餅になった長髪の男は薄いスポーツジャンパーと、汚れたベージュ色なのか褐色なのかわからない綿のズボンをはいていた。そんな彼がとても丁寧に箸を使って弁当の中のウィンナソーセージをつまんで食べていた。明らかに、ホームレスだ。ヨム女史は気を引き締めて近づいた。
その時だった。3名の見知らぬ男が弁当を食べている彼に向って飛びかかった。ヨム女史は驚いて足を止めるしかなかった。3名のハイエナのような男たちはやはりホームレスであることは明らかで、弁当の男を抑えつけたまま何かを奪うために必死の努力をし続けた。彼女は周囲を見回して足をとんとんと踏み鳴らしたけれど、通り過ぎる人々はホームレスのありふれた喧嘩と思ってちらっと見るだけだった。
男は食べていた弁当を落としたまま全身をボールのようにしゃがみ防御した。しかし結局彼らによって首を絞めつけられ…腕を持ち上げられ・・・守っていた物を奪われてしまった。不安で落ち着かずに見ていたヨム女史の視野に彼らが奪った物がぱっと入ってきた。自分の桃色のポーチだった!
弁当の男を外すように足で何度か踏んでから、ホームレス3人がその場を離れ始めた。ヨム女史は手足が震えてどうしたらいいか分からず座り込んだ。その時男が反撃するように起きてポーチを握った野郎に向かって全身で飛び込んだ。
「くあう!」
奇声と一緒に男が野郎の足を掴んで倒した。野郎をぐっと抑えつけ、再びポーチを奪った男をすぐに他の野郎どもが襲った。その時ヨム女史の目に火が入った。彼女はすっくと起きて彼らに向かって飛び出て首に青筋を立てて怒った。
「や、この野郎!それを置いて行かないか!!」
彼女の叫びと突進に野郎どもがぎょっとした。駆け付けた彼女は鞄を持って一番前の野郎の頭に打ちおろした。ううっ。野郎が苦しがるや野郎どもが起きて後退りし始めた。
「泥棒め!私の財布盗んでいく!この野郎ども。」
ヨム女史の甲高い叫びに人々が立ち止まって関心を持ち始めると、野郎どもが一人二人体を転じて逃げ始めた。弁当男だけは、ひたすら胸の中にポーチを抱きかかえたまま、しゃがんでいた。彼女は男に近づいた。
「大丈夫ですか?」
男が顔を上げてヨム女史を見上げた。殴られてはれた瞼、鼻血と鼻水が混ざって出てくる鼻、髭で包まれた口があたかも狩りに出かけて負傷して戻ってきた原始人のように見えた。男は、ようやく自分を攻撃していた野郎どもが消えたことに気づいたようにゆっくり体を起こして座った。ヨム女史もハンカチを取り出して、そんな男の前にしゃがんで座った。
その時、ホームレス特有の腐ったような臭いがして吐きそうな臭いが鼻にふっと入ってきた。ヨム女史は息を止めて彼にハンカチを渡した。男は首を振ってジャンパーの袖でさっと鼻をこすった。彼女はひょっとしたらポーチに男の血と鼻水がつくかと心配する自分に癇癪を起した。
「本当に大丈夫ですか?」
男がうなずいたりヨム女史を見たりした。注意深く見ている男の視線に、彼女はしばらく自分が何か間違ったことでもあるのか心配になって、すぐそこを離れたい気持ちが先だった。そうだ、今ポーチを返してもらわなければならなかった。
「ありがとう。これを守ってくれて。」
男が自分の左腕で包んだポーチを右手でつまむと、彼女に渡した。そしてヨム女史がポーチを受け取ろうとする瞬間、男がもう一度自分の胸に回収した。驚いた彼女を几帳面に観察しながら彼がポーチを開けた。
「何をするのですか?」
「持ち主…合っていますか?」
「勿論です。私が持ち主だからわかってきたんじゃないですか。さっき私と通話したのを思い出さないんですか?」
根拠のない彼の疑いにヨム女史は気を悪くしそうになった。男はうんともすんとも言わず、ポーチをくまなくさがして財布を見つけて、そこから身分証を取り出して調べた。
「住民番号・・・です。」
「えっ、私が今嘘をついていると思っていますか?」
「確かめなければなりません。・・・これ持ち主・・・
返すのに、責任があります。」
「それ住民登録証に私の写真貼ってあるじゃないですか。比較してみてください。」
男は殴られて腫れた目をぱちくりさせながら住民登録証
とヨム女史を代わる代わる調べた。
「写真・・・同じに見えません。」
でたらめにヨム女史は我知らずに舌打ちをした。腹も立たなかった。
「古い、古くなりました。写真。」
男が付け加えた。古くなった写真だけれど、明らかにヨム女史の顔でわかるはずだが、おそらく健康状態を反映しているようで男の視力に問題があると思った。あるいは彼女が本当に見違えるように年取ったとか。
「住民番号・・・い、言ってください。」
ふっ、ヨム女史は短いため息をついてから男に向かってきちんと言った。
「520725-xxxxxxxx、でしたか?」
「た、正しい。確実にしなければなりません・・・
ですよね?」
男が同意を求める目配せと一緒に住民登録証を財布に入れて再びポーチにつめて渡した。ヨム女史はポーチを受け取った。一幕の騒動が片付いた気分になると、男に感謝の気持ちが沸き上がり始めた。別のホームレスたちに殴られてまでポーチを守ったことから、持ち主にきちんと返すためにきちょうめんに確認したことまで、本当に相当な責任感でなければ、できない行動のためだった。
その時男が声を出して立ち上がった。ヨム女史もそこで起き上がって慌てて財布から現金4万ウォンを取り出した。
「どうぞ。」
渡したお金をを見て男が躊躇するのを感じた。
「受け取ってください。」
男は現金に手を伸ばす代わりにジャンパーに手を入れ、 正体のわからないチリ紙の包みを取り出した。それで鼻血が出ている鼻をぬぐった。そして振り向いて歩き始めた。謝礼を持った手がきまり悪くなった彼女はしばらく男を眺めた。彼はしゃがんで弁当を食べていたコンビニの前へあがくように歩いて行ったので体がうつむいた。彼女は男の後ろについて行った。
コンビニの前、さっき食べていた弁当がひっくり返された光景を見て、男は独り言を言っていた。続いてため息も聞こえた。しばらく彼の後姿を観察していたヨム女史が、うつむいて背中をたたいた。男が振り返ってみると、彼女はいじけた生徒を励ます時の表情を作っているように見えた。
「小父さん。私と少し行きましょう、ね?」