『そぞろ歩き韓国』から『四季折々』に 

東京近郊を散歩した折々の写真とたまに俳句。

読書感想144  帰郷者

2014-09-20 02:40:27 | 小説(海外)








読書感想144  帰郷者

 

著者      ベルンハルト・シュリンク

 

生年      1944

 

国籍      ドイツ

 

出版      2006

 

邦訳出版    2008

 

邦訳出版社   (株)新潮社

 

訳者      松永美穂

 

 

 

感想

 

 ドイツで母と暮らすペーターは、休暇になるとスイスの湖畔に住む父方の祖父母のところで過ごした。戦争中にスイスの赤十字と一緒に戦場に赴き亡くなったという父の生前の話を聞いたりして田舎の生活を楽しんだ。祖父母は毎晩「喜びと娯楽のための小説」の編集をした。しかしペーターにはもっといい小説を読みなさいと言って読ませてくれなかった。そしてドイツに帰るペーターに見本刷りの余りを雑記帳として持たせてくれたときも裏面を読むんじゃないよと釘を刺した。しかし13歳になったときに、ひょんなことからその裏面の小説を読んでしまった。それはロシアの捕虜収容所を脱走し、故郷への途上で多くの危険をくぐり抜けるドイツ兵士の物語だった。彼が帰郷したときに妻は小さい娘を従え赤ん坊を抱いて、背に腕を回している男とドアの前に現れた。その続きはもう破って捨てたあとだった。結末を読みたいと思って翌年の夏に祖父母の家でその小説を探したが、見つけることができなかった。祖父母が事故で亡くなって、その遺品の中にもその小説はなかった。しかし小説の中の帰郷したドイツ兵の家が、自分の住んでいる町の中にある建物とそっくりなことに気がつき、その小説がギリシャの叙事詩「オデュッセイア」を底本にしていると確信をもつようになった。そして作家として一人の男が浮上してきた。

 

 ここでは、帰還者小説の結末の謎から、作家が誰なのかという謎を追ううちに、ペーターの父母の秘密、ナチスの戦争責任から逃亡した人たちの戦後の姿まで明らかになっていく。脱構築法理論というものが、彼らの戦後の自己合理化に使われているようだ。しかしその理論はずいぶんわかりにくい。理詰めで謎解きをしているようで、最後は一気に直感によって核心に到達した感がある。状況証拠ばかりでこれといった確実な証拠を見つけることができなかった謎解きの道のりだった。

 

 フリードリッヒ大王の法治主義とかヨーロッパの歴史にまつわる逸話も珍しく興味深い。著者は法律の専門家なので法についての話が詳しくおもしろく書いてある。ドイツの戦中から戦後の雰囲気がよく伝わってくる小説だ。

 

 

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