
「いくらIMFでもそれはあまりにも度がすぎるよ。講師が奴らの下僕か。」<o:p></o:p>
彼女は急ブレーキを踏んで道の脇に車を止めた。両手でハンドルをぎゅっとつかんだまま全身をわなわなと震わせた。指輪をはめていたところは一層白っぽくなってしまった。彼らが訪れる冬の海は厳しい寒さに耐えられないまま、カチカチに凍っているようだった。<o:p></o:p>
「今その取るに足りない自尊心を出せる時なの? 健康な人が路頭に迷う時代じゃないの! 私は今この自動車のローンも出せない境遇なのよ!」<o:p></o:p>
彼と彼女はしばらく互いに別の風景を眺めタバコを吸った。彼はずっと彼女の車に乗せてもらうだけだったが、一度もローンを代わって払ってやると考えつかなかったことに、ようやく気付いた。<o:p></o:p>
「ごめん。」<o:p></o:p>
彼は彼女の手をなでた。空しくわびしかった。戻ると前の半分しか講師料がうけとれないとしても、仕事をして彼女の心配を減らしてやろうと決心した。新しい指輪をもう一度彼女のほっそりした指にはめようと考えて納得した。そして彼は長い息を吐き出した。呼吸を整えた彼女はもう一度海に向かって小型車を走らせた。オーディオから流れ出る歌が彼女と彼の沈黙を温かく包んでくれていた。テープの片面がすべて終わると、すぐに彼は勇気を出し沈黙をやぶって彼女に彼の描いた青写真をほのめかした。<o:p></o:p>
「むしろ僕たちが力を合わせることが経済的じゃない?」<o:p></o:p>
「力を合わせるって? 結婚? 同居? 私を養っていく自信あるの?」<o:p></o:p>
彼女は再び乱暴に車を止めた。あっしまったと思いつつ、彼は本心と違って進む状況をひっくり返すことができなかった。<o:p></o:p>
「指輪を売ったお金で旅行に来ていて、ふざけたことを言うな!」<o:p></o:p>
「ごめん。」<o:p></o:p>
解氷の兆しを見せていた海がすばやく元の状態に帰って行った。<o:p></o:p>
IMFをあらかじめ予見してあの二人を米国へ派遣したのでないのか?<o:p></o:p>
もっぱら朴セリと朴賛浩の天下のようだった。失意のままに家出し、頭を丸め、行方を隠し、それだけでなく自ら命を捨てる人達がたくさんいる社会では、朴セリと朴賛浩は灯のような存在に変わっていた。二人が投げて打つ小さい2個のボールが太平洋の向こうで、希望を失った人達に笑いを取り戻させてくれたと、テレビの中の人々は騒いだ。その影響かはわからないが彼と彼女にも短い平和が訪れた。彼は中高生を相手に声を張り上げて熱心に教え、彼女の自動車ローンを2回も出してやって、彼女は一人で生活する彼を不憫に思って、母が作っておいたキムチや保存おかずをまめまめしく届けた。<o:p></o:p>
彼と彼女は祝日を利用して高くはないけど真心のこもった贈り物をもって、両家に挨拶もした。不安なその何かが依然としてその底に潜んでいたけど、互いに対する配慮が先だって、水面から出てこなかった。社会から落伍しなかったという安堵感から手を握って一緒にテレビを視聴する夜は、その何にも代えることができない大切な時間だった。そしてそのテレビ画面の中で朴セリと朴賛浩が交互に剛速球を投げて、ヤンキーたちを三振アウトにとったり、LPGAで優勝カップをぐっと握ったりしていた。彼女が言った。<o:p></o:p>
「朴賛浩を見ると力を感じるわ。野球を見るために徹夜しても翌日何でもないから。」<o:p></o:p>
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