花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

素人と玄人

2015-12-10 | 日記・エッセイ


現代は、経文ならぬ世間の良識とやらの文字を体中に隙間なく書き込んでいないと、芳一の様にたちまち耳を持ってゆかれる。かつての無頼派や破滅型の芸人さんなどは絶滅危惧種となった。かくして潜む毒は封印され、あるいは限りなく希釈されて殆ど水になる。ひとの心を癒す芸や作品という類の言葉を隠れ蓑に、もはや誰が飲んでも安全なパフォーマンスが上質とされる。

果たして、素人は玄人の芸人さんに何を期待しているのか。持て余した日常を引き破った中に忽然と現れるビビッドな色を見たいのか。つるつるとお互いを撫で合う身過ぎ世過ぎの裏に潜む不条理を白日の下に晒して欲しいのか。ありふれた毎日を生きる心の水面に予期せぬ波紋を生みだすものは、多かれ少なかれ常識に反する非常識、秩序に対する反逆の要素をはらんでいる。けだし至言、美は乱調にあり、芸術は爆発である。

しかししばしの酔いの後で、堅気の生活者は明日からまた素面の此岸に戻らねばならない。彼岸に渡ったままで帰れずというのでは、やはり困るのである。中には酒壺になり酒に染むのだという、やたらとヘビーな嗜好の持ち主もいるのかもしれないが、やらねばならぬこと、やりたいことが多すぎる現代人にとって、一つのことにずぶずぶに嵌り込むなどという仕儀は百害あって一利なしであろう。

言うなれば、求められるのは速やかな導入と覚醒である。次々と食い散らかしては移ってゆくイナゴの様な、サービスするのはあなたの仕事とすまし顔の、どこまで行っても消費者でしかない素人を相手に、今日もまた何処かで玄人の憂鬱が続く。もっとも素人には素人なりの言い分もある。-----悪酔いするか、ほとんど水かの二択ではなく、五年後、十年後にも酔いがほのかに残る様な美酒を醸して下さいませんか。 

最新の画像もっと見る