立冬(11月8日)は、二十四節気の第19番目の節気である。漢字の「冬」の象形は食物をぶらさげて貯蔵したさまを表わす。秋に収穫され天日干しを経た作物が最終的に収納庫に蓄えられているのである。この収納、格納という意の「蔵」が冬の核となるイメージであり、動物も植物も万物は活動を休止して冬籠りに入り、自然界の陽気は内蔵され陰気が盛んとなる。冬の養生の要諦は、ふたたび巡り来る生長発育の来季の春に備えて、陰を引き締めて陽を庇い守る「斂陰護陽」である。昼間は陽気をいたずらに消耗せずに、秋よりもさらに早寝を心がける。そして朝もよりゆっくりと起床して、太陽が昇った後の恵みを享受することが必要である。
冬は、木、火、土、金、水の五行で言えば「水」にあたり、肝、心、脾、肺、腎の五臓の内の「腎」と深い関係にある。従って冬は腎を養う季節となる。東洋医学的な腎の概念は、西洋医学的な腎臓の機能(体液、細胞外液組成の恒常性の維持;老廃物や余剰の水分の血液からの濾過、排出;血圧・尿量調整、赤血球産生や骨代謝にかかわる内分泌作用)とはいささか異なる。腎の働きとされるのは、水液代謝の温煦調節、生命根源の力である精気の貯蓄(蔵精)、さらに肺が吸入した正気の体内深部への取り込み(納気)である。精気は身体の成長発育、生殖を含む生理的活動の物質的基盤となる基本物質であり、腎は生命の源の「先天の精」を蓄えるが故に「先天の本」と呼ばれる。腎中の精気の不足が、五臓六腑や組織器官を潤し滋養する「腎陰」、五臓六腑や組織器官を温め駆動する「腎陽」の陰陽失調を来すと、腎陰虚あるいは腎陽虚の症候が出現することになる。この他にも腎は、骨、歯や毛髪の代謝、耳(西洋医学の解剖学的に申せば、内耳さらに中枢性聴覚経路を含む)や二陰(外生殖器の前陰、肛門の後陰)の機能調節と関連する。また五臓の相互関係からは、冬の飲食では、鹹味(塩からい)を少なく、苦味(にがい)を多くする「少鹹多苦」が望ましい。酸、苦、甘、辛、鹹の五味に関連する五臓は、各々肝、心、脾、肺、腎である。冬に旺盛となる腎が行きすぎないように、また旺盛となる腎が克する(働きを抑えて調節すること)心を養うためである。
山背の 久世の鷺坂 神代より 春は萌りつつ 秋は散りけり 万葉集 巻第九 鷺坂にして作る一首