Goycoolea MV, Paparella MM, Nissen RL: Atlas of otologic surgery, W.B.Saunders, 1989
Atlas of Otologic surgeryは1989年に出版された耳科手術に関する専門書で、長年の豊富な臨床経験に基づく耳科手術のエッセンスが多くの術野の図譜とともに記されている。この本に巡り合ったのは勤務医時代で、一冊の本に隈なく目を通すという様な生真面目な人間ではないのに何故か序文から読み始めた。下記はその時に衝撃を受けた、Goycoolea先生がお書きになった序文の中の一節である。ここには学びゆく者のあるべき立ち位置が明確に提示され、医学や医療に携わる者、さらには他の領域においても通じる心構えが語られている。その道一筋に精進を重ねた先達が後に続く者達に是非とも伝えねばならぬと思い定めたものが何であったのか。著者の心の深処から熱い鼓動が伝わってくる名文である。
Otologic surgery, like medicine itself, is a never-ending learning process.
You are never too good to learn from everybody else. Seeking advice is a sign not of weakness but of maturity. Learn to use your senses; observe and listen to other surgeons and specialists, the operating team, your patients, and others. Learn positively from those who want to help you and from those who want to harm or use you. Each surgical case is different. When placing pressure-equalizing tubes, study the ear canals and their contents, the tympanic membrane, the middle ear mucosa, characteristics of the effusion, and so on. Relate them to one another, to the laboratory studies, and to the clinical history. This simple process will enrich and you will learn what you never thought you would. (p. xiii)
耳科手術は医学そのものと同様に決して終わりのない学びの道です。貴方がもはや誰からも学ぶ必要のない域に達したなどということは決してありません。人に助言を求めることは弱点ではなく成熟の証しです。五感を研ぎ澄ましなさい。他の術者、専門家、手術室の仲間、患者さんや諸々の人達の言うこと行なうことに目を凝らして耳を傾けなさい。貴方を助けてくれる人達からは勿論のこと、傷つける或いは利用しようとする人達からも積極的に学んでゆくのです。手術症例には一例とて同じものはありません。中耳換気チューブ挿入においても、外耳道、鼓膜、中耳粘膜、中耳滲出液の特徴等々を注意深く調べなさい。それらがお互いに、また検査データ、臨床経過とどのように関連しているかを洗い出して検討を加えなさい。この一つ一つの単純なプロセスが自分を豊かに育て上げ、当初よもや習得できるとは思えなかった事さえもその身に可能にしてくれる道なのです。(拙訳)