花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

新元号「令和」を寿ぐ│初春令月 気淑風和

2019-04-01 | アート・文化


梅花の歌三十二首 幷せて序
天平二年の正月の十三日に、師老(そちのおきな)の宅に萃(あつ)まりて、宴会を申(の)ぶ。時に初春の令月にして、気淑(よ)く風和(やはら)ぐ。梅は鏡前の粉を披く、蘭は珮後(はいご)の香を薫らす。しかのみにあらず、曙の嶺に雲移り、松は羅(うすもの)を掛けて蓋(きぬがさ)を傾く、夕の岫(くき)に霧結び、鳥は穀に封ぢらえて林に迷ふ。庭には新蝶舞ひ、空には故雁帰る。ここに天を蓋(ふた)にし地を坐(しきゐ)にし、膝を促(ちかづ)け觴(さかづき)を飛ばす。言を一室の裏に忘れ、衿を煙霞の外に開く。淡然自ら放(ゆる)し、快然自ら足る。もし翰苑にあらずば、何をもちてか情(こころ)を攄(の)べむ。詩に落梅の篇を紀(しる)す、古今それ何ぞ異ならむ。よろしく園梅を賦して、いささかに短詠を成すべし。(万葉集・巻第五)

天平二年正月十三日、師の老の邸宅に集まって宴を開いた。折しも、初春の佳き月で、気は清く澄み渡り風はやわらかにそよいでいる。梅は佳人の鏡前の白粉のように咲いているし、蘭は貴人の飾り袋の香のように匂っている。そればかりか、明方の嶺にには雲が往き来して、松は雲の薄絹をまとって蓋をさしかけたようである。夕方の山洞には霧が湧き起り、鳥は霧の帳に閉じこ林に飛び交うている。庭には春生まれた蝶がひらひら舞い、空には秋来た雁が帰ってゆく。そこで一同、天を屋根とし地を座席とし、膝を近づけて盃をめぐらせる。一座の者みな恍惚として言を忘れ、雲霞の彼方に向かって胸襟を開く。心は淡々としてただ自在、思いは快然としてただ満ち足りている。ああ、文筆によるのでなければ、どうしてこの心を述べ尽くすことができよう。漢詩にも落梅の作がある。昔も今も何の違いがあろうぞ。さあ、この園梅を題として、しばし倭(やまと)の歌を詠むがいい。
(青木生子, 井出至, 伊藤博, 清水克彦, 橋本四郎校注:新潮日本古典集成 万葉集二, p61-70, 新潮社, 1978)

三十二首の内
春されば まづ咲くやどの 梅の花 ひとり見つつや 春日暮らさむ
            筑前守山上大夫(山上憶良)

青柳 梅との花を 折りかざし 飲みての後は 散りぬともよし 
            笠沙弥(沙弥満誓、俗名笠朝臣麻呂)

我が園に 梅の花散る ひさかたの 天より雪の 流れ来るかも
            主人(大伴旅人、序における師老)







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