第74回正倉院展が奈良国立博物館で開催中である。本年も漆背金銀平脱八角鏡をはじめ数多くの御物が公開された。これら最高の芸術品に物心が付く前から囲まれ培われた審美眼は、長じて鑑賞の機会を得て意図的に学び育んだそれとは、恐らく雲泥の差があるに違いない。
現代において、受験戦争、やれ偏差値や席次、一流校進学、学位や資格云々に齷齪するのは、露命の身をあれこれ飾り立て成り上がらんとする、所詮、我等一般庶民における行動様式である。これらは後からの自助努力次第、切れ者の御方であれば位人臣を極めることも可能であろう。だが美意識のみならず、風格、見識や居住まい等々、其処に生を享けねば決してその身に備わらないものが、厳然としてあるのではなかろうか。今の世は何処も彼処もボーダーレスが至極当然であるが、かつて痛感した「上つ方とは│第29回日本医学総会にて」(2015/12/25)の述懐をふたたび思い起こさずにはいられない。