花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

柴胡(サイコ)│三島柴胡(ミシマサイコ)

2022-09-11 | 漢方の世界


柴胡(サイコ)は、セリ科、ミシマサイコ属の多年草、ミシマサイコ(三島柴胡)、学名Bupleurum scorzoneraefolium Willd. var. stenophyllum Nakai/日本薬局法:B. falcatum Linné (Umbelliferae)、またはその変種の根から得られる、辛涼解表薬に分類される生薬である。ミシマサイコの名は、静岡県の三島地方で産出されるサイコが良質であったことに由来する。花期は8~10月、複散形花序に黄色の小さな花を咲かせる。
 薬性は苦、微辛、微寒、帰経は肝・胆・心包・三焦経で、効能は解表退熱、疏肝解鬱、昇挙陽気、退熱截瘧である。サイコは『神農本草経』上品に含まれ、傷感少陽病期に治療に用いる重要な生薬である。配合される柴胡剤は多く、小柴胡湯、大柴胡湯、補中益気湯、四逆散や柴葛解肌湯等がある。柴葛解肌湯は従来よりインフルエンザなどウイルス感染症、急性熱性疾患に用いる、表証と半表半裏を兼ねた病態に対する方剤である。昨今ではCOVID-19感染症に有効な漢方処方の一つとして注目されている。

ちなみに「蛍草」(ほたるそう)はホタルサイコ(蛍柴胡)の別名で、学名はB.longiradiatum var. elatiusである。一方「露草 つき草 ほたる草」(「草木花 歳時記(秋の巻)」, p52-53, 朝日新聞社, 1998)と記された様に、「蛍草」(ほたるぐさ)はツユクサ科、ツユクサ属の「露草」(つゆくさ)の別名ともなりまことに紛らわしい。また芭蕉の句「陽炎や柴胡の糸の薄曇り」(猿蓑)の“柴胡”は、キンポウゲ科、オキナグサ属の「翁草」(おきなぐさ)であり、“柴胡の糸”は花後に絹の玉の様に白い綿毛を伴う結実の表現である。
 さらなる蛇足として、ツユクサの全草から得られる生薬は清熱瀉火薬の「鴨跖草」(オウセキソウ)(効能は清熱瀉火、解毒、利水消腫)、オキナグサの根から得られる生薬は清熱解毒薬の「白頭翁」(ハクトウオウ)(効能は清熱解毒、涼血止痢)である。