花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

蓮(ハス)基原の生薬

2022-08-14 | 漢方の世界

極楽世界 楼閣地水図│芹沢銈介画, 佐藤春夫作:「極楽から来た挿絵集」(法然上人絵伝), 吾八, 1961

又舎利弗 極楽国土 有七宝池 八功徳水 充満其中 池底純以 金紗布地 四辺階道 金銀瑠璃 玻瓈合成 上有楼閣 亦以金銀瑠璃 玻瓈硨磲 赤珠瑪瑙 而厳飾之 池中蓮華 大如車輪 青色青光 黄色黄光 赤色赤光 白色百光 微妙香潔 舎利弗 極楽浄土 成就如是 功徳荘厳 (仏説阿弥陀経)

水生多年草のハス(蓮)、学名Nelumbo nucifera Gaertnerは、かつてスイレン科ハス属に分類されていたが、現在はハス科ハス属である。泥中から茎を伸ばし水上に清浄な花を咲かせる蓮は、古来、西方極楽浄土に咲く神聖な花と尊ばれてきた。薬用としてハスは『神農本草経』上品(じょうほん;無毒で長期服用が可能な不老長生薬)、果菜部に「藕實茎」(ぐうじつけい;蓮根)の名が収載され「味甘平。主補中養神、益气力、除百疾。久服軽身耐老、不飢延年。」の記載がある。ハスは花や葉から種子、蓮根まで各部位が薬用となり、この意からも藕花は極楽浄土の七宝池に植生するにまことに相応しい花である。ハス基原の主たる各生薬名<薬用部位>:薬性/帰経/効能/方剤例を下記に掲げた。

〇蓮子(レンシ)、蓮肉(レンニク)<成熟種子>:
 甘、渋、平/脾・腎・心経/
 健脾止瀉、養心安神、益腎固精/参苓白朮散、清心連子飲
〇蓮子心(レンシシン)、蓮心(レンシン)<種子中の胚芽>:
 苦、寒/心・腎経/清心安神、交通心腎、渋精止血/清宮湯
〇荷葉(カヨウ)<葉>:苦、渋、平/心・肝・脾経/
 解暑清熱、升陽止血/清絡飲
〇荷梗(カコウ)<葉茎、花茎>:苦、平/肝・脾・胃経/
 解暑清熱、理気化湿
〇蓮房(カボウ)<花托、果托>:苦、渋、平/肝経/
 散瘀止血/瑞蓮散
〇蓮花(レンカ)<花蕾>:苦、甘、凉/心・胃経/
 散瘀止血、去湿消風
〇蓮髭(レンシュ)、蓮蕊(レンズイ)<雄蕊>:甘、渋、平/腎・肝経/   
 清心益腎、渋精止血/金鎖固精丸
〇藕節(グウセツ)<根茎(蓮根)の節部>:渋、平/肝・肺・胃・膀胱経/
 収渋止血、凉血化瘀/小薊飲子

朝露にきほひて咲ける蓮葉(はちすば)の塵には染(し)まぬ人のたふとさ
     良寛歌集・夏   良寛


五十 蓮花│「四季の花」夏之部・參, 芸艸堂, 明治41年