花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

紅葉と楓をたずねて│其の四 ・ もみじの葉

2016-12-06 | アート・文化


庭の楓の紅葉や黄葉はすでに盛りを過ぎ、名残の景色を梢に留めて師走を終えようとしている。先の霜月、第17回綴喜医師会学術集談会が京都市内で開催された。そして今年も演題発表のスライドの中に楓の写真を入れたのだが、それには理由がある。毎年、錦秋の候を迎えるたびに頭をよぎる一つの思い出を此処に記して、本年最後の「紅葉と楓をたずねて」の記事としたい。

「もみじの葉は人間に似ていますなあ、先生。みんな同じような形をしているのに、二つとしてぴたっと重なる程、同じ形のもみじなどありませんものなあ。」
これは勤務医であった若き頃、午前の外来診察でお会いした御高齢の男性患者さんがしみじみとおっしゃった言葉である。何の話の続きであったのか、私がその時どのようにお返事したのかの記憶は定かでない。思い起こせば、肉体としての人体の意味にとどまらず、精神性も含めた人間そのもののあり方についての感慨を述べられた御言葉であったかもしれない。そして今ならば私はどうお答えするだろうかと、紅葉の季節が巡り来るたびに考える。

振り返れば、もみじの葉叢の一枚一枚をしかと拝見して、よく似た形や色を呈する中に僅かに異なる相違を見極めることが医師にとって必要な視線であり、微妙に形や色が違う中に共通した原則を捉えて外さないことも医師に求められる姿勢である。また「手当て」の字面を辿れば、もみじの葉に似た手をお人に当てるのである。改めて思えば「手当て」とは実に含蓄のあるシンボリックな表現であった。