第67回日本東洋医学会学術総会が高松で開催された。学会開催前日、国の特別名勝、栗林公園に伺った。はるか昔、小学校の修学旅行で初めて訪れた時に園内で買った小さな奉公さんの人形は、いまも家の陳列ケースの中で静かにたたずんでいる。栗林公園は紫雲山を借景とした大名式回遊庭園で、南湖と称する大きな池に面した大茶屋、掬月亭の傍らに「根上がり五葉松」が独特の風姿を見せている。元は徳川十一代将軍家斉公が松平家九代藩主頼恕公に賜った盆栽が地植えされたもので、黒松の台木に五葉松が接ぎ木されていることは説明書を読むまで解らなかった。鉢の中の盆栽は、いまや何処までが黒松で何処から五葉松か、一見では見抜くことは出来ない10m近い高さの豪壮な大木に育っている。
「根上がり五葉松」の姿は、南湖周遊和船に乗せて頂いて湖から眺めると陸地からとはまた趣が違う。今更ながらに思ったのは、接ぎ木が大きく育つためには地にしっかりと根を張った台木が殊の外大切だということである。黒松の台木は、ひとつの葉が表に出ることなくとも、また活かしているのは私だと能書きを垂れることもなく、それがどうしたと言わんばかりに五葉松を擁して泰然とゆるがない。おのれが守るべき本分の職分に徹しているのである。