ヤマトタケルの夢 

―三代目市川猿之助丈の創る世界との邂逅―
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九月博多座大歌舞伎『三人吉三巴白浪』2

2005-09-15 19:25:54 | 歌舞伎
たまちさんの猿★征観劇記(2)

【三幕目】

<巣鴨吉祥院本道の場>

欄間の絵は天女が舞う割とハデ目なんだけど、
うら寂れた感じのお寺の本堂で火鉢にあたる堂守源次坊。
「和尚がお酒でも買ってこないかなぁ」なんて独り言。
やはり普通の坊主ではない。

そこへ和尚を訪ねてお坊が花道より登場。
「ほぉ~っ!」と溜息が出る美しい立ち姿。
(これは私の贔屓目だけではなくて、
実際に周りのご婦人方からも声が上がりましたよ)

和尚はお風呂に行っているということで上がって待つことに。
すると、なんと源次坊とお坊は既知の仲。
「お酒でも出したいところなんだけどね・・・」
か~な~りの酒好き源次坊!うふっ(←?)
ひと目をしのんでいる為、買物も出来ないお坊は
お金を出しお酒とツマミの調達を依頼。
出かけに源次坊は、何とか壇の下(シュビ壇だったかな?
名前忘れました。すみません。お位牌のような物が並んでいる所の
下が押し入れのような引き戸になっており・・・)
へ隠れておるよう勧めます。

この時の源次坊はちょっと雰囲気が違う。
同じような境遇を生きてきた者同士って感じが漂う。
出番中、ずっと笑いを誘う風体なだけに、
この時の様子なんだか心に留まります。

帰ってきた和尚に捕り手が「これまで犯した罪により逮捕する!」
だが、頭の役人は和尚に司法取引を持ちかける。うわぁ~カッコイイ!!
薪車さんに一緒に観劇してた妹の眼はハート!
今は改心してる様子だから、お嬢とお坊を捕らえて差し出せば
和尚の罪を許してやる。暴れるなら殺して首を差し出ても構わない・・・と。

和尚は褒美として百両までも要求。この時点で既に、
十三郎とおとせを身代わりにするつもりだったのでしょうねぇ。
そしてこの百両で本物2人を江戸から落ち生き延びさせようと・・・。
和尚の頭は坊主頭。最初出てきたときの髪形というか刈り方、
あれは一体なんだったんでしょう??
時々現代でもお見かけしますが違う意味で。

役人が去り和尚独りになると、お坊が何とか壇(苦笑)の下から姿を現し、
「俺に縄を打ってくれ」と手を後ろにします。
どうせ捕まるのなら和尚の役に少しでも立ちたいと。
しかし和尚は役人の目を欺く為に言ったことだと言い、
暗くなるまで身を隠しているよう指示し、
小さな炭壷のような物を持たせます。
(湯たんぽの代わりかな?)和尚の事を思い捨身を決意するお坊。
また彼に対する和尚の気取らない優しさ。
形式的な「義理」じゃない「心のつながり」を感じます。

14歳の時から辛苦を舐めているお坊には、
こういう和尚の何気ない心遣いもまた、
彼の事を慕う要因であるのかもしれませんよね。
人間の心のありようなんてのはいつの時代も同じだなぁ・・・
としみじみ感じます。変わって欲しくないものでもあります。

ここで和尚は、お坊が探している庚申丸についての特徴を尋ねます。
父の悪行を償う為、自分が探し出すつもりでしょう。
またこの時お坊は、お竹蔵で人殺しをした事をとっさに隠します。
三人の絆のお陰で、荒んでいた気持ちが変化し、
人としての心を徐々に取り戻してきていたから、
人殺しを悔いていたのでしょう。(元々仕方なく殺した感もあったし)
だから和尚に知られたくないと思ったのでは。この気持ちもわかるっ!

そこへ源次坊が十三郎とおとせを伴い戻ります。
お酒とネギと軍鶏を一羽ぶら下げて・・・。
個人的に妙に軟らかそうな軍鶏の首が気になって(笑)
あれどんな素材でできているんでしょうね?

十三郎とおとせと和尚、実の三兄弟が揃います。
ここで初めて和尚は伝吉の死を知ります。
しかも遺留品によりお坊が殺した事を。
そしておとせから百両を奪ったのがお嬢だという事を。
このもつれにもつれた因縁の全てをここで掌握してしまった和尚。
伝吉が自宅で自分の悪行と因縁に慄いたあの場面とちょっと通じませんか?

おもえば和尚と伝吉って可哀想な親子ですよね。
心の底では実は分りあっているのだろうけど、
顔を会わせれば反発してばかり。
似たもの同士だからなんだけど・・・一卵性親子。

そしてここで目を見張るのは、十三郎とおとせの夫婦っぷり!
おとせは着物も紺色の格子柄(に見えました)で
十三郎の縦縞と同系色でお似合いなんですよねぇ~!
しっくりお似合いの夫婦って感じ。
こういう寒色系のいでたちも美しいですねぇ春猿さん。
この後の展開を知っているからかもしれませんが、暖色系がない分、
精気が無いというか「この世のものと思えない美しさ」を感じます。

和尚は人に聞かれたくない話があるからと
2人を裏手の墓場に向わせます。
軍鶏鍋の用意が出来たと現れた源次坊に、和尚は使いを頼みます。
棺桶用の桶1つと京帷子2つ。

軍鶏を捌く為に源次坊が研いだ出刃包丁を手にとる和尚の眼差しは
鬼気迫る感じです。

人気が無くなったお堂に、お坊が隠所から出てきて様子を伺っていると、
天女の欄間絵がすっと開きお嬢が顔を覗かせます。
場内沸きますもちろん。お嬢がお堂へ降りてきて懐かしの再会です。
ここで2人は一緒に死のうということになるのですが、
合意に至るまでにひとくだりあり。
「どうして一緒に死のうと言ってくれないのか!」
と詰め寄るお嬢の台詞とお坊の「分った」という表情が非常に印象的!
死ぬ理由を書き記す為に両脇の柱にかけてあった
1対の帯のような掛け軸のような物をお坊が刀で落とし、
墨をするお嬢の元へと引きずりながら持ってくるのですが、
この場面、哀愁感たっぷりで何ともいえません。じわっときます。

<裏手墓地の場>

既に和尚に襲われた2人は地面に座しポーズをとったまま盆回しで登場。
ホント体力要るなぁ・・・と変なとこに感心。
立ち回り。墓石って意外と簡単に倒れるのねぇ。
照明も控えめだし、2人とも顔面蒼白。2人を殺す理由説明。
しっかしそんな理由で殺される事を納得できるのかなぁ???と疑問。

それでも「2人一緒に死ねるなら」「お金の事だけは頼みます」
とは・・・なんと不憫な。事切れる間際に割れ茶碗に汲んだ水を、
十三郎→おとせ→和尚の順に和尚が飲ませます。
これって、兄弟の契り?夫婦の契り?お別れの水杯?
そして、あっぱれお見事なのが
笑三郎さんの死にっぷり(←こんな言い方よいのか?)
観ているこちらも呼吸を忘れ見入ってしまいます。
倒れた十三郎の頭が盆の外に出てるので、
舞台転換の時さいごの最後まで気になってみてしまいます(笑)
あれ、すってるのかなぁ?

<元の本堂の場>

盆回しで場面が変わり、お嬢とお坊が後ろ向き座姿で登場。
くぅ~っ!この姿がまた何とも言えないんですよ。
両脇の柱には既に死ぬ理由が書き記された軸のような物が元通り掛けられ、
2人は夫々それを眺めている。
このとき私の頭の中では何故かユーミンの曲が流れてるんですよ
「ま~どべに置いた椅子に・・・」って曲がイントロから(爆笑)

お坊がお嬢を殺してから自害とすることに決定。
愛する人を手にかけるのは辛いと思うのですが、
お坊の口ぶりにはそういう迷いを超越した潔さすらあり、
より一層印象的な場面です。
静まり返った冷たい真冬の朝の空気みたいな・・・。
そうそう、お坊が自分の生まれを語り両手で顔を覆い涙する、
そんなシーンが本堂ではあります。
良家の跡継として生まれ本当に可愛がられた育ちの良い子が
悪事の果てに自害するんですからねぇ。
そしてこの時の段治郎さんの手指の美しいこと!注目です!!

今まさに・・・というところへ(この2人の姿がまた美しいのです!)
「死ぬには及ばない」と
和尚が「生首」のお包みを両脇に抱えて上手奥より登場。ひぇ~っ!
2人もお包みを開けて、ご対面~。しぇ~っ!
和尚が全ての事情を説明し、今後は悪事を止めて改心する事を誓い合う3人。
和尚は生首を役所へ届けに行くと言い、お坊は庚申丸を、お嬢は百両を・・・
それぞれ届けに行く為に退場。

日暮れに桶をからって帰ってきた源次坊。
本堂でお包みにつまづきさぁ大変。そりゃそうだ!
和尚はすがる源次坊を蹴飛ばし花道より退場。
勢いで桶に仰向けにはまった源次坊だけが残される本堂。
昼の部・夜の部ともに「桶」に縁のある今月の猿弥さんでした。

【大詰】

<本郷火の見櫓の場>

雪景色。いよいよ張り巡らされた「非常線」、
厳重警戒態勢の為に町人の日常生活にも支障が出ています。
首実験の結果ウソがばれた和尚は捕らえられた。
残りの2人が捕まったら木戸が開く。
その知らせは火の見櫓の太鼓の音。
それまでは通行できないし太鼓を打てばお仕置きだ。

花道からお坊が筵に身を隠し手ぬぐいをかぶり素足で雪の中を登場。
足元は膝から下が見えている。
まずここ(美しいおみ足)に眼が釘付けですわな(爆笑)
同時にお嬢も筵に手ぬぐい被りで上手の入り口から通路を少し通って舞台へ。
近くのお席だった方が羨ましいですね。
2人は本舞台上で再会するものの木戸の内と外。
木戸越しに握り合う手に現れる懐かしさともどかしさ。

捕り手が現れて夫々に大立ち回りとなりますが、
これを眼で追うのが大変よ~!なんてものじゃない!
分担せいか一応それぞれ立ち回りの見せ場があるものの同時進行も多く、
あっちも見たいしこっちも見たい、あ~目がまわるぅう!
屋根上の立ち回り後、屋根から木戸ウチへ飛び降り、
お嬢が絡めとられている縄を一刀で断ち切り2人寄り添う。
この時背後の櫓にドンっと当り2人の頭上に雪の塊がドサッ。
お嬢が櫓に登り太鼓をたたきます。う~ん、八百屋お七。
そう言えば、欄間の天女もそうでしたね。

和尚が花道から登場し、自分を逃がす為に危険を犯して
2人がやった事だと知ります。
八百屋久兵衛も現れ、ここでお嬢と親子の対面。
割とあっさりしているなぁと感じましたが、
他の方はどう思われましたでしょうね?

お金と刀は久兵衛へ預けられます。
お坊のお家へ出入りしていた業者が久兵衛だったとは・・・
最後まで抜け目がないですね「からみあう因縁」
思い残すことはなくなり、いよいよ最期「わが身の成敗」
お坊は短い刀を和尚に渡します。和尚は櫓の途中で。
刀の鞘を投げ捨てたお坊はお嬢と身を重ねるように櫓のたもとで・・・。
・・・絶句。とにかく観て下さい。・・・としか言えない美しさ。
幕切れは本当にほんとうに切ない気持ちに包まれます。

観劇後すっご~く頭使う作品ですね。
久兵衛以外はみ~んな死んじゃった!
「悪事を重ねどうせ死なねばならぬ身」
という一見捨てばちなせリフに隠れる、
自分の大切な人の為にこの身を賭す・・・
そんなテーマもあるのかな。義理じゃなくて自発的な思い。

舞台写真入りの筋書きを手にできる日が楽しみです!

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