第2部 地域経済活性化の道
紘一郎雑記張
早稲田大学大学院 教授:西村 吉正
これは、日本人にできることはアジア人にもできることを示しているに過ぎない。在日大使館のアジア人外交官は、30年前に、私がヨーロッパで見たことを、日々実感していることだろう。
生産拠点が海外へ流出するのは当然である。それを防ぐには、日本人の労働条件を“アジア人に近づける”ほかない。あるいは、彼らが追いつくまで、足踏みして待っていることになる。
現在のデフレは、それに近いことが起こっていることを意味している。
しかし、それでは地域経済は、ますます地盤沈下し、日本経済の国際的地位は、低下の一途をたどる。前向きに事態を打開しようとするならば、日本人一人一人が、アジア人を振り切り、欧米人を抜き返す国際競争力を身につけなければならない。
現在の低迷を抜け出すには、結局、日本人一人一人が4万ドル(一人当たりGDP=国内総生産)を稼ぎ出す力をさらに伸ばしていくしかない。
老人や病人は増えるから、現役はその分までカバーしなければならない。アジアとの総力戦には、大都市だけでなく地域経済の活性化が不可欠である。
それぞれの地域で各人が4万ドルを稼ぎ出せる経済基盤を創り出す以外、多様で元気な日本社会を復活させる方法はない。地域振興といえば規制緩和や地方分権が持ち出されることが多い。
そこには、中央集権体制により地方の活力が東京に吸い取られているという論理がある。それは否定できないが、実際には、それぞれ特色を持つ日本の各地域が、自分たちの特色を活かす工夫を見出しかねているという側面が強いのではないか。
ルクセンブルク=(一人当たり10万5千ドル)、 スイス=(6万8千ドル)、
デンマーク=(5万6千ドル)など、欧米の“成功事例”を見ると、むしろ地域経済と似た条件の下で成果を挙げている。
人口がほぼ同じ500万人で立地条件の似ている北海道は、どうしてデンマークに遅れをとっているのか。世界一の所得水準を誇るルクセンブルクは人口40万人の、いわば「中山間地域」である。
「グローバル化の時代」にも、地域経済が、大都市圏を凌駕(りょうが)する道は、いろいろありうるのではないか。
(早稲田大学大学院 教授:西村 吉正)