有力企業・福知工業・後編
紘一郎雑記帳
そしてこの業界は3社のみです・昨日より
ミニローリーは法律の文面にも登場するぐらいで、
名付けた同社がパイオニアだったのだが、当然、市場には後発メーカーが
参入してくる。実際、小さいトラックにポンプ付きのタンクを
載せるぐらいは簡単だと、多数の会社が参入した。
しかし、このミニローリー、実は作るのがとても難しい。
何が難しいのか?それは法規制をすべて満たすこと。
まずは消防法を満足させなければならない。
さらに、量り売りをするのだから、計量法の規制も受ける。
そして、そもそも日本では自動車にも多くの関連法規が覆いかぶさっている。
つまり、これら3分野の法律全てを満たす商品を作るのが
本当に大変で、現在では同社を含め3社しか残っていないのだ。
しかも、同社以外の2社は上場会社で、「
社長も入れて7人の会社なんかうちだけですよ!」と、
創業者の孫に当たる福知香代子現社長は笑いながら語ってくれた。
厳しい業界、厳しい時代の中で
3社でシェアを分け合っているが、ミニローリーの世界、
特に同社にとってはなかなか厳しいようだ。
まずは同社が新製品を開発して販売しても、すぐに他の2社が
追随してくる状況は常に変わらず、
「売れるものを作ると他がすぐにコストダウンして類似品を
販売するという辛い状況がうちの常なんです。」
と社長が苦笑いしながら語ってくれた。
次は「脱石油」というエネルギーを取り巻く環境の大きな変化が
業界を厳しくしていることである。ハイブリッド車や電気自動車、
オール電化の流れは変えがたいものになっている。
もはや、ミニローリーがたくさん売れる時代ではないのだ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/16/14/151ae400b657148e4a691e8d798508ff.jpg)
さらに同社は年商2億で社員数7名と言う正真正銘の中小企業で、
社会情勢の変化に大きく影響されてしまう。
実際、東日本大震災の直前には石油業界の縮小傾向に対応すべく、
3つあった同社の工場の一つを閉鎖して賃貸マンションにした。
社員も最も多い時で20名近くいたが、7名に整理した。
(これについては取材させてもらったから良く言うのではないが、
60歳以下の希望する社員については全て社長が再就職を斡旋したのである。)
パイオニアとしての責務を果たす
しかし、同社には強みもある。まず、同社の売りは「
角形の鉄のタンクを架装していること」で、これは悪路の振動や衝撃にも強く、
また車との一体感を出すスマートなフォルムにつながっているので、
根強いファンが多い。
また、同社は同業者がうまみが無いと敬遠する
「ローテクのアナログメーター」を主に採用していて、
安くて使いやすい宅配ローリーにこだわっているのである。
ただ、若い世代にも対応して、最近ではワンタッチでプリントアウトまでする
デジタルメーターの取り付けも行うようになったのだと言う。
福知社長は語る。
「宅配ローリーは車の入れ替え(タンクの載せ換え)も含めると
30年ぐらいは使われます。新車を売っていると言うことは、
30年先まできっちり面倒を見る会社を続けますよ!
という約束をお客様にしていることなんです。」と。
業界のパイオニアとしての姿勢が素晴らしいと感じた。
継続を前提とした事業譲渡を目指す
今後の展開は?とお聞きしたところ、福知社長からは意外な答えが返ってきた。
「M&Aしてもらいます。」30年継続すると言っていたのに、
どういうことなのだろうか?しかし、実際はこういうことだった。
「私は先代の娘ですが、会社を継ぐのは嫌でした。
そして、私には娘が二人いますが、二人とも継ぐ気はありませんし、
継がせる気もありません。しかし、お客様にはずっと30年先まで
サービスを続けないといけません。
実は5年ほど前かはうちと考え方が似ている会社と協業を進めていて、
これから何年かかけてM&Aさせるつもりなんです。
ただ、福知工業の名前は残して、社員も全員引き継がせる。
お客様と社員は守るんです。だからこそ、事業譲渡するのです。
今はそのために仕事と社員の人事交流を徐々に行っている最中です。」
と説明してくれた。
拡大を目指す経営者が多い中で、縮小や事業譲渡を堂々と
宣言するとは意外だったが、これも発展の一つの形だと感銘を受けた。
5年後、10年後の同社が、さらには福知社長が
どうなっているかがとても楽しみである「先見経済より」