官僚に何故自殺者が多いのか
紘一郎雑記張
「栄枯盛衰(えいこせいすい)は人生の常である。順境は、いつまでも続くものではなく、逆境も、心の持ちよう一つで、これを転じて順境たらしめることも出来る。逆境の順境は、心の構え方一つで、どうにでも変化するものである」高橋是清(たかはし・これきよ)
上の言葉を残した高橋是清(たかはし・これきよ)は金融の番人といわれる日本銀行の歴代の総裁で唯一その肖像が日本銀行券に使用された人物である。
高橋は日本銀行総裁の他、大蔵大臣(現・財務大臣)を計7回歴任し、第20代内閣総理大臣も務めた人物である。これだけ聞くとずっと勝ち組みできた人物と思われるかもしれないが、決してそうではない。今まで日本は伊藤博文が初代の総理大臣になってから62人(現・野田総理まで)の総理大臣が誕生しているが、総理になった人で高橋ほど職を転々とし、波瀾万丈の人生をおくった人はいないであろう。
高橋は安政元年(1854年)に生まれ、昭和11年(1936年)に亡くなるまでのその83年の生涯で転職はゆうに20回を超えている。10代の時に留学生としてサンフランシスコに行ったのが、そこで奴隷として売られたり、芸者の箱屋(三味線運び)をしていたこともあれば、南米ペルーの銀山開発に誘われて行ったら、これまた騙され、結果高橋は負債を整理するために自宅の家屋敷をも売払い、女房と二人の息子をかかえ、どん底の生活まで落ちたこともあった。
しかし高橋はどんな逆境も乗り越えてついに総理大臣にまで昇り詰めた人物である。最初の言葉はそんな高橋だからこそ説得力があるといえるだろう。
高橋に限らず、古今東西、歴史に名を残した偉人をみてみると最初から最後まで順調だった人はまずいない。必ず逆境や不運に遭遇はしている。ただその時にお先真っ暗と思うか逆に飛躍のチャンスと捉えて頑張るかで大きく人生が変わるのだが、無論、偉人といわれる人は皆、後者の生き方をしている。
また、松下幸之助は
「人間の心というものは、孫悟空(そんごくう)の如意棒(にょいぼう)のように、まことに伸縮自在である。その自在な心で、困難なときにこそ、かえってみずからの夢を開拓するという力強い道を歩みたい」
という言葉を残してくれた。ようするに人は生きている限り、挫折することもあれば必ず不運も訪れる、しかしその時に自分がどう思うかで先々が大きく違ってくるということだ。
日本ではあまり表に出てこないが自殺者の多い職業に官僚がある。なかでも昔から一番自殺者が多いのが大蔵省(現・財務省)といわれる。大蔵省といえば官庁の中の官庁。ほとんどの人が東大を優秀な成績で卒業し優秀な成績で大蔵省に入りエリートの道を歩んでいく
しかし問題は彼らに限らず、日本では失敗をしないことが善とされ、失敗することは人生の落伍者として扱われる。
特に大蔵官僚のようなエリートの道を歩んできた人ほど、失敗した時に立ち直ることが出来ない。ここで頑張ればまだ幾らでも道はあるだろうに、いやむしろこの逆境を克服してこそ初めて人間的にも大きくなれるはずなのに、そちらに目が向かず自ら命を絶ってしまうケースが多い。
失敗しないことを善(減点主義)とする日本の社会はどうかと思う。また私は先人達の逆境も順境も「心の構え方一つで変わる」という言葉に勇気づけられるし、こういうことを教えていくべきだと思う。