「むかし、私たちは」
樹は人のように立っていた
言葉もなくまっすぐに立っていた
立ちつくす人のように、
森の木々のざわめきから
遠く離れて、
きれいなバターミルク色した空の下に、
波立てて
小石を蹴って
暗い淵をのこして
曲がりながら流れてくる
大きな川のほとりに、
もうどこにも秋の鳥たちがいなくなった
収穫のあとの季節のなかに、
物語の家族のように、
母のように一本の樹は、
父のようにもう1本の木は、
子どもたちのように小さな木は、
どこかに未来を探しているかのように、
遠くを見はるかして、
凛とした空気のなかに
みじろぎもせず立っていた。
私たちはすっかり忘れているのだ。
むかし、私たちは木だったのだ。