岩木山麓一帯は、耳鳴りがひどいと思うような蝉時雨である。こんなに湿度が高くても、蝉は勢い強く鳴き続けるのかとふと思った。そうだ、もう夏は終わるのだ。いのちの
短い蝉にとっては、今鳴かないではおられないだろう。岩木山は雲の中にあり、一日姿を見せなかった。深夜から朝方にかけ強い雨が降ったためか、これまで日照り続きで乾燥しきった農場の緑が甦っている。
オーナーハウスを訪ねると、夫妻がゆったりと時間を過ごしていた。早朝からの作業で、もうかなり野菜の出荷準備が終わったのだろう。昨日までに実家の方々がたくさん来訪してぎやかだったオーナーハウスは、いまは二人だけで静まり返っていて、どことなく夫人も寂しそうに見えた。忙しさがまたその感傷的な部分を振り切っていくことだろう。
先日オーナーが銀河鉄道の夜をモチーフにした版画絵を二枚みせてくれたが、それの一枚を私にくれるという。北海道で版画絵作家の佐藤国男さん・通称「山猫博士」を名乗っている方だそうである。書籍を二冊みせていただいた。宮沢賢治と縄文が好きな方だそうで、瀬棚町のご両親が行なった「フォルケホイスコーレ」という「農民学校」を紹介していた。デンマークで起きたこの学校は、瀬棚のお父さんは酪農を勉強するためにデンマークに若い頃行ったという。そして、20年間瀬棚で酪農を行なって、1990年からこの学校(三愛塾)を行って来たのだそうである。不登校など家の中に閉じこもりがちになった若者が、ここで元気になって行く様を見て来られたのだと思う。一度その当時の話をゆっくりお聞きしたいものである。
オーナーが「とうもろこしは後一週間くらいで収穫だ」と自分に向かって希望を鼓舞していた。このところの雨で野菜も元気を出して、良い出来に変化すればよいのにと思うのである。
午前中は出荷準備の鞘インゲンやニンジンを収穫し、あうんメンバーが到着したので、ネギ畑の草取りを行なった。雨が降って草も勢いが強くなった気がする。
昼食のソーメンをいただいて、オーナー夫妻は出荷前の「マニアックベジタブル」という新聞作りで忙しい。
わたしはオーナーが出かけるのに合わせて、あうんの畑の野菜を見に行った。ズッキーニもキュウリも一日でこんなに成長するのかと思うほどに、大きくなっていた。トマトもようやく赤く色づいてきたし、万願寺トウガラシも勢いがいい。あっという間に、手かご一杯になっていた。ジャガイモも茎は枯れ始めているので、月末には収穫できるのかもしれない。かぼちゃはあうんの畑で一番勢いがよいのが感じられる。縦横無尽に蔓が伸び、枝豆やトマトがまるでその蔓に襲われているような勢いである。数本の蔓は今まさに道路を渡ろうかとしている。かぼちゃの実も大きく成長している。出来秋が期待できそうである。
・蝉時雨口に広がるトマトかな