プルケリマ(Pulcherrima) うしかい座のε星で本来の名はミラクあるいはイザールと云うが、ロシアの天文学者ストルーフェが”最も美しいもの”(プルケリマ)と名付けたことから有名になった重星。濃い黄色の主星(2,7等)と青緑色の伴星(5等位)が3″弱の間隔で並んでいる。
私にとっては初めて聞く星名であった。其れまでに幾冊ものガイドブック等は読んでいたけれども、関心の無い重星及び変光星の部分はとばして読んでいたから・・・
(壱)で書いたように、眼視観望に目覚めた私は、何を見ても楽しく、又、如何なる対象でも受け入れる状況(対象天体への枯渇)に有ったようで、其れまで全く関心を示さなかった重星にも飛びついたのである。又、光学チェックにも興味が湧いており、当に重星は好都合の対象であった。
さて、春の霞棚引く空に、目指すプルケリマを捉え、さてや我自慢のアストロ製15cm鏡は如何か! ん??傍らに見える筈の伴星がない・・・ シンチレーションも透明度も良くは無いが、15cmなら軽々と見える筈なのに如何眼を凝らしてみても伴星を認めることが出来ない。しかし、その後も辛抱強く覗いているうちに、何とか認められるようになり、確認の為にアポダイジングマスクを付けてやっと確信を持つに至った。しかし、”最も美しいもの”等と云うようなぺアには到底見えなかった。重星って難しいものだ!侮りがたいぞ! 其れからと云うもの、来る日も来る日もプルケリマを見続けた。その後、又、N氏よりはくちょう座のδ星も勧められ、此方も同じように見続けた。(此方はプルケリマよりも難しく2~3度目10cmにてやっと確認出来た) これ等2星は1年間、観望の度欠かさずに見続けた。 初めの頃は中々簡単に分離出来なかったのが、1年も経つと”何で、この程度のものが分離出来なかったのだろう”かと思うようになった。(今では、少々条件が悪くとも口径5~6cmで容易に確認出来る) これは、単に眼の鍛錬が出来ていなかったからに他ならず、見えているのに認識出来ないと云うことである。惑星の観察等でも熟練観察者と一般観察者とでは模様の抽出能力に可也の差が有るように、重星でも同じことが云える様だ。熟練の重星観察者が、まさか!と思われる条件や口径で何々を分離したと云う話を聞くことが有るが、決まってウソだ!見えるわけ無い、錯覚だと云う疑問視の声が湧き上がる。此れなどが、その良い例で熟練者と一般の差と云うものである。鍛錬を重ねた熟練者の眼は驚く程の認識能力を持っているものだと私は思っている。因みに、有る素晴らしいシーイング時に口径20cmの望遠鏡でプルケリマを愚妻に見せたことが有るが、何としても一つの星にしか認識出来なかった。 その時の私は素晴らしい伴星の見え方に感動していたのだが・・・ (見慣れているものとの差)
重星を楽しむには先ず慣れることが肝要で、慣れるほどに重星の素晴らしさが判ってくるものである。 それにしても、美しさ及び難易度的に当に絶妙な重星を紹介して下さったN氏には本当に感謝している。もしも、これが、簡単に分離出来る重星で有ったなら、私の性格から云って直ぐに厭きてしまい星見も止めていたことだろう。 続きは又。