あび卯月☆ぶろぐ

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映画『太陽』感想

2006-10-15 22:09:34 | 映画・ドラマ
昭和天皇を主人公したロシヤ映画『太陽』を観に行って来た。

この作品はストーリーらしいストーリーは無く、人間と神との間でただただ苦悩する天皇が淡々と描かれている。
以前、あまカラさんが「退屈だった」と書かれていたが、その指摘は正しい。
私も、ああこういうことか、と思った。
特に昭和天皇に興味が無い人はなんのことだかさっぱりわからないと思う。
ゆえにこの映画にはエンターテイメント性は無い。
むしろ、主人公(昭和天皇)の細やかな心理描写をしみじみと愉しむ映画であろう。
いうなればこの作品はわびさびの映画である。
喉が渇いたから飲むお茶ではなく、嗜む為に飲む抹茶のような感じ。
(わかりにくいかな?)

この映画の最大の見どころはイッセー尾形の演技だ。
細やかな仕草や昭和天皇の独特の話し方を真似ていたのは見事だった。
多分、イッセーさんは随分昭和天皇の実際の映像を観るなどして研究したのだろう。
ネット上では「演技過剰だった」とか、「昭和天皇に対して失礼だ」という意見もあるようだが、私はなかなか良い演技だったと思う。
というより、私はイッセー尾形の演技を見るためにこの映画を観たと云っても過言ではない。
それほど、イッセーさんの演技は好きだし、その期待は裏切られなかった。
ついでに言うと、木戸幸一も米内光政も阿南惟幾も平沼騏一郎も顔がそっくりで可笑しかった。
(阿南惟幾のキャラはあんな感じでは無いと思うが)

ただ、この映画を観るにあたって気をつけなければならないことは
個々の事象が史実と懸け離れているということだ。
私は映画だからフィクションがあっても一向に構わないと思うが、
やはり実在した人物を主人公にした映画だから多くの人はあの内容を史実として認識してしまうのではないだろうか。

この映画の主題である人間と神との間で苦悩する天皇という内容さえ、私は史実でないと思う。
昭和天皇は戦争末期に戦火に斃れゆく国民を思い、また、結果的に戦争を止めることの出来なかった責任やその他諸々の事で大いに苦悩されていたことはあった。
が、人間と神との間で苦悩されるとうことは果たしてあったのかどうか疑わしい。
昭和天皇は昭和二十一年元日に出された詔勅(いわゆる「人間宣言」)について、
昭和五十二年八月二十三日の記者会見で
「じつは、あの詔勅の一番の目的は五箇条の御誓文でした。神格(の否定)とかは二の問題でありました」と述べている。
戦中の過剰な神格化に戸惑われたこともあったかもしれないが、それを主題にしたのはやはり西洋人と日本人の「神」に対する認識の違いだろうか。

また、御前会議での昭和天皇のお言葉や、マッカッーサーとのやり取りも殆ど創作だ。
勿論、事実の部分もあるがかなり脚色されている。
他にも、酒と煙草を嗜まれない昭和天皇がワインやコニャックを飲み、
葉巻まで呑んだことにはちょっと苦笑せざるを得なかった。
ついでに揚げ足を取るならば皇太子に手紙を書くシーンで昭和天皇は現代仮名遣いを用いていたが、これもあり得ない。

昭和天皇の苦悩を描くのであれば、神と人間という問題よりも、
立憲君主としての天皇という立場に苦悩するひとりの人間としての姿を描けば良かったと思う。
(戦争を止めたいがそれを立場上、それを口に出せないことなど)
それならばかなり史実に近い形で作品に出来る。

ところで、物語の前半、
主人公が研究所でヘイケガニの標本を見ながら何かに取り憑かれたようにこのカニについての知識を饒舌に喋るシーンがある。
次第にその内容は大東亜戦争の原因についての話に変わってゆき、
さらに、話は支離滅裂な内容になってゆく。
研究所には光が差し不気味に明るく美しい。
私はこのシーンが好きだ。
この辺の描写は妙にリアリティがあって本当にこういうことがあったようにも思える。

じじつ、昭和天皇は戦争末期、心労からすっかり憔悴され、しばしば独り言を言われていたという。
吹上御所の庭を散歩される時などは時折、大声で繰り返し独り言を言われることもあったようだ。
他にもこんなエピソードがある。
『昭和史と天皇』から少し引用する。

植える種や草があると、子どもが砂遊びに使えるような小さなスコップを持って出られた。
そして、警護の内舎人に向かって叫ばれた。
「御警護!水を持て!」
すると警護の内舎人は、御文庫の入口の近くにある水道まで行って、ブリキのジョウロに水を汲んで持ってきた。
しかし、天皇はしばし放心され、ジョウロで水を撒いていても、立ちすくんで植えた草とはまったくちがう方向に水を注いでいることがあった。


この光景は作中で主人公が速記者(書記?)に「書き続けて!書き続けて!」と云いながら支離滅裂なことを云うシーンと重なる。

先に述べたようにドキュメンタリー映画を除いて映画はフィクションを描くものだから、
天皇がワインを呑もうが宇宙に行こうが本来ならば構わないし、あって良いことだ。
しかし、やはり主人公が主人公なだけにどうしても史実との整合性を考えてしまうし、ワインや煙草を呑んだら変な感じがする。
そこが、天皇を作品の主題とする難しさだと感じた。

最後に。
映画館には『太陽』のパンフレットが売っていたが、つくりが大変良かった。
特に田原総一朗の解説が載っていてとても楽しく読んだ。
巻末にはほとんど全てのセリフを記載したシナリオも掲載されているので、内容を思い返す時にも役に立つ。(一緒に簡単な解説も載っている)
他にも色々と解説が載っているのでこの映画を観て興味を持った人や
内容がよく解らなかったという人に是非お薦めしたい。

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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (Senshu)
2006-10-20 22:56:16
あー、なんかロシア人が頑張って作りました的な作品だよね(ぁ
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Unknown (あび卯月)
2006-10-20 23:57:36
書き込みありがとうございます。



Senshuさんもこの映画、御覧になりました?

この映画は方々で「歴史認識が間違っている」との批判があるようで、

特に明治天皇の子孫であらせられる竹田恒泰さんは「人類史上最悪の映画」と大批判されてらっしゃいました。

http://blogs.yahoo.co.jp/takebom1024/39729034.html



しかし、私はこの映画の核は史実との整合性にあるのではないと思っていますので、

「人類史上最悪」とは言い過ぎかなと思いました。

まぁ、竹田さんにとっては身内の問題だから仕方ないかな・・・。



>あー、なんかロシア人が頑張って作りました的な作品だよね(ぁ



確かに一言で言うとそういう映画かもしれませんね(笑)
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Unknown (senshu)
2006-10-21 00:29:01
実は観てないけど、ロシア人の監督が熱弁する長ったらしいインタビューなら読みました。

VHSで借りれるかなあ?
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Unknown (あび卯月)
2006-10-21 00:33:00
>ロシア人の監督が熱弁する長ったらしいインタビューなら読みました。



私はそれは読んでないですね(笑)

読んでみたいかもかも。



>VHSで借りれるかなあ?



まだ、日本ではソフト化していないようです。

ただ、海外のものではDVD化されているらしいですが、

VHSはどうなんでしょう・・・?
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