11日(木).わが家に来てから683日目を迎え,仲間たちとリオ・オリンピックの模様をテレビで観て 日本選手に声援を送るモコタロです
日本選手 やる時はやるじゃん 4年後が楽しみだ(早っ!)
閑話休題
昨夕ミューザ川崎で東京シティ・フィルの「ドイツ音楽の神髄! 飯守泰次郎のワーグナー」公演を聴きました これは7月23日から本日まで開かれている「フェスタサマーミューザ」の一環として開かれたコンサートです.プログラムは①ワーグナー「歌劇”ローエングリン”」から「第1幕への前奏曲」,②モーツアルト「クラリネット協奏曲イ長調K.622」,③ワーグナー「歌劇”タンホイザー”」序曲,④同「楽劇”トリスタンとイゾルデ”」から「前奏曲と愛の死」,⑤同「楽劇”ワルキューレ”」から「魔の炎の音楽」「ワルキューレの騎行」です.②のクラリネット独奏はペーター・シュミードル,指揮は飯守泰次郎です
午後7時からの本公演に先立って,3時から同じ会場で公開リハーサルが開かれました 最初に事務方から,リハーサルは最初にアンコール曲のワーグナー「歌劇”ローエングリン”」から「第3幕への前奏曲」を演奏し,次いで同「歌劇”タンホイザー”」序曲,同「楽劇”トリスタンとイゾルデ”」から「前奏曲と愛の死」,同「楽劇”ワルキューレ”」から「魔の炎の音楽」「ワルキューレの騎行」,最後に同「歌劇”ローエングリン”」から「第1幕への前奏曲」を演奏し,休憩後にモーツアルト「クラリネット協奏曲」のリハーサルを行う旨の説明がありました リハーサルのしょっぱなからアンコール曲を演奏する,という考え方が新鮮でした
オケのメンバーはもちろん,指揮者の飯守氏もカジュアルな服装でリハーサルに臨みます オケを見渡すと,コントラバスの首席の位置に読響の西澤誠治氏がスタンバイしています.結構ありますね,オケ同士のレンタルが コンマスは客員の松野弘明氏です
飯守氏が楽譜を抱えて登場,会場に向かって,
「みなさん,今日は暑い中ようこそお出でくださいました これから本番に向けてリハーサルを行いますが,協奏曲もあるので,喧嘩になるか,仲良くなるか,やってみなければ分かりません」
とユーモアを交えて挨拶しましたが,いざ指揮をしようとして指揮棒が無いことに気が付き,
「〇〇さ~ん,指揮棒がないよ~」
とステージ・マネジャーに叫びます.この場面で私は「指揮棒は指揮者が自分で持ってくるべきものではないか,あまりにも無棒だ」と思いました.さすがステージ・マネジャー〇〇さんはタクトを2本持ってきました.飯守さんは二ホン人ですから
さっそくアンコール曲の歌劇「ローエングリン」から第3幕への前奏曲を通して演奏しました 次に歌劇タンホイザー序曲を通して演奏した後,数か所オケに修正してほしい点を口頭で伝えますが,その場でやり直して演奏させることはありませんでした 飯守氏と東京シティ・フィルの深い関係ですから口頭で言えば分かるのでしょう
次に楽劇「トリスタンとイゾルデ」から「前奏曲と愛の死」の演奏に入りますが,これは途中で止めて数か所,演奏上の注意を与えました そして楽劇「ワルキューレ」から「魔の炎の音楽」と「ワルキューレの騎行」を,最後に歌劇「ローエングリン」から「第1幕への前奏曲」を通して演奏し,前半の部を終わりました ワーグナーだけで1時間半の時間を割きました.いかに飯守氏がワーグナーに重きを置いているかが伺えるリハーサルです
リハーサル後半はクラリネットのペーター・シュミードルを迎えて,モーツアルト「クラリネット協奏曲」の演奏に入ります オケの規模を縮小し,飯守の軽快なタクトで第1楽章から入ります.全体を通して演奏した後,飯守氏が何カ所演奏上の注意をしましたが,そのうち1か所について,シュミードル氏に楽譜を見せて,タクトで指摘箇所を指し示すと,シュミードル氏は「そんなこと分かってるよ」と言わんばかりの態度で軽くメロディーを吹きました それに対し,飯守氏は楽譜を譜面台に叩きつけた,ように見えました 部外者としては「ああ 指揮者とソリストのプライドを賭けたバトルが始まったな」と興味半分で見ていましたが,片や天下のウィーン・フィルの元首席奏者,片やドイツで経験を積んだ日本を代表する大指揮者,火花が散っていました リハーサルが始まる前に飯守氏が「喧嘩になるか,仲良くなるか分からない」と言っていた意味を この時初めて理解しました このバトルは本番の前兆であったことが後で分かります.たっぷり2時間半の実に興味深いリハーサルでした
さて本番です.1曲目はワーグナーの歌劇「ローエングリン」から第1幕への前奏曲です かすかなヴァイオリンの響きが浮遊感を感じさせます これが次第に弦楽全体と管楽セクションを巻き込んで大管弦楽に拡大していく高揚感は何とも言えません ワーグナーの中では好きな曲です.演奏を聴いていて,飯守氏が自ら芸術監督を務める新国立オペラで今年5月に振った「ローエングリン」を思い出しました
オケの規模が大幅に縮小し,2曲目のモーツアルト「クラリネット協奏曲K.622」の演奏に入ります リハーサルのバトルを引きずっているのでしょうか,シュミードルは譜面台を指揮者側でなくコンマス側に斜めに傾けて設置しています.まるで指揮者と目を合わせたくないかのようです
飯守の指揮で第1楽章「アレグロ」に入ります ソリストが途中で高音部が苦しそうな場面があり心配しました ”息苦しい”感じです.第2楽章「アダージョ」はまだマシでしたが,第3楽章「ロンド(アレグロ)」に入ると,音飛びがひどくなり,とうとう破たんしてしまいました それでも飯守+東京シティ・フィルは何とか曲を完成させなければならないので,途中で音楽を止めることなく献身的にシュミードルをサポートして演奏を続行させました
演奏が終わると,シュミードルは自分のクラリネットを手で叩き,「こいつが思うように鳴ってくれないんだよ」とでも言いたげな顔付きを見せました.日本の聴衆は優しいので,栄光のウィーン・フィルのかつてのクラリネットの名手に拍手を惜しまないのでした
私から見ると,シュミードルはリハーサルの一件を引きずって本番に臨んだのだと思います リハーサルで全体を通して演奏した時はこんなことは起こらなかったのですから,テクニック上の問題ではないと思います 私はこれほど破たんした演奏を聴いたのは今回が生まれて初めてです.コンサートは何が起こるか分かりません
プログラム後半は飯守泰次郎お得意のワーグナー特集です 歌劇「タンホイザー」序曲,楽劇「トリスタンとイゾルデ~前奏曲と愛の死」,楽劇「ワルキューレ~魔の炎の音楽,ワルキューレの騎行」と聴いていくと,やっぱり飯守泰次郎のワーグナーはいいなあ,と思います ホルン,トロンボーンといった金管楽器を思う存分咆哮させ,弦楽器を力の限り弾かせ,打楽器には破壊力を求めます ワーグナーの求めたもの,それは指揮者・飯守泰次郎が求めたもの,カタルシスです
お約束通り,アンコールには歌劇「ローエングリン」から第3幕への前奏曲が華々しく演奏され 万雷の拍手を浴びました
本番のミスは演奏技術の問題と同時に,楽器自体の整備不良があったのかもしれない,とも思います