人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

椰月美智子著「るり姉」を読む~小説はリズムが命

2013年07月19日 07時06分15秒 | 日記

19日(金)。17日付朝日夕刊・文化欄に、富士山が世界遺産に決まったことを受けて、日本文学者ドナルド・キーンさんのインタビュー記事が載っていました その中で、キーンさんは、

「(富士は)日本で一番高いだけでなく、美しく、宗教とも関係があり、日本人にとって特殊な意味を持つ。米国で一番高い山を問われてもどこにあるのかよくわからない 富士のような存在の山はありません

として、富士山を讃えています。その上で、

「西洋の美学と対照してみると、日本の美は日常的です。バスの運転手の頭上やトイレの壁に小さな花入れがあったり、百貨店の店員が芸術的な包装をしたりするのを見て私は驚きます 私が書くものに価値があるとするなら、外国で生まれ育ったため、日本人の美を、日本人よりも敏感に見つけることができるということでしょうか

と語っています。キーンさんの言われる通りなのかも知れませんが、外国人の誰もが日本の美を敏感に感じ取ることができる訳ではありません やはり独特の感性を持っていらっしゃるのだと思います。われわれ日本人より日本のことをよくご存じなのにはです。

 

  閑話休題  

 

昨夕、当ビル8階の会議室で元の職場のOB会(旧友会)が、終了後に9階の記者クラブで懇親会が開かれ、幹事の一人として出席しました 何人かの先輩方と親しくお話しした後、新旧幹事団5人で地下のRに移り、酒を酌み交わして昔話に花を咲かせました 

元幹事のMさんとは一緒に何にでも挑戦しました。ン十年も前のことですが、私は神保町のヤマハ・フルート教室に通い発表会までやりましたが、”フルートは息が続かない”と限界を感じて1年間で引退を表明しました その後、Mさんに誘われて西新宿にあるヤマハ・エレクトーン教室に通うことにしました エレクトーンは指で鍵盤を押している限り音が出ているので、これは楽だ と思って始めたのです。

われわれの先生は、よく話を聞くと、Mさんの高校の後輩で、しかも築地のA新聞社の読者サービス室長の娘さんであることが判りビックリしました 先生は美人だったので、注目されたいばっかりにポータトーン(卓上電子ピアノ)を買って自宅で練習を積んでから週1回のレッスンに通ったものです 

レパートリーが30曲くらいまで拡大したある日、先生が「それじゃあ、明日から足に入りましょう」とおっしゃいました。「足に入る」ということは両手での演奏に加えて両足も使って複雑な演奏を始めることを意味します。私はその日を境に、きっぱりとエレクトーンと縁を切りました 能力の限界を早くも見極めた結果です その後、あの先生はどうしているでしょうか?先生、元気ですか?・・・・

 

  も一度、閑話休題   

 

椰月美智子著「るり姉」(双葉文庫)を読み終わりました 椰月美智子(やづきみちこ)は1970年神奈川県生まれ。2002年「十二歳」で第42回講談社児童文学新人賞を受賞してデビューしました。この本は「本の雑誌」2009年上半期エンターテインメント・ベスト1に輝いた傑作小説です

十代の三姉妹(さつき、みやこ、みのり)の母親けい子の妹がこの小説の主人公るり姉です 第1章は「さつきー夏」、第2章は「けい子ーその春」、第3章は「みやこー去年の冬」、第4章は「開人ー去年の秋」、第5章は「みのりー4年後 春」となっていて、それぞれが第1人称で、るり姉との関わりを綴っています 三姉妹の母親けい子はシングルマザーで、開人(かいと)はるり姉の2番目の旦那さんです

ほとんどどこの家庭にもあるような日常的な生活が語られていますが、思わず「うん、うん、あるある、そういうこと」と相槌を打ってしまうシーンがあちこちに散りばめられています

例えば、みやこが帰ってきた時のさつきとの会話です。

「ただいまーぼなす」

みやこご帰宅。腐った赤キャベツをてっぺんでお団子にしている

「おかえりーずなぶる」

なんとなくみやこに合わせて答えてしまった。そんな心境じゃないのに。こんなくだらないダジャレもるり姉の影響だ

「なにそれ。だっさ」

ふん。まーぼなす、のほうがダサいだろ。

これと同じパターンの会話が開人とるり姉との間で交わされます

「ただいまんぐーす」

と言うと、るりちゃんが

「おかえりんどばーぐ」

と飛び出してきた。このくだらなさが最高に楽しい新婚生活である。

わが家でもこれと似たような会話があります

「ただいまんもす」

「おかりんご」

あくまでも私と娘との会話ですが

この本で一番面白かったのは、るり姉が考え付いたという「悲しみごっこ」という遊びです

「『悲しみごっこ』というのは、二人で前後になって手をつなぎ、うなだれながら『昭和枯れすすき』などを口ずさみ、電気を消して廊下をとぼとぼ歩く、という遊びだ。なんだそれ とはじめは思ったけど、やってみると案外その気になる 特に悲しい出来事を思い出すとか、想像するとかではない。もうそれをやっている時点で、充分に悲しい その気になって二人が悲しみを分かち合い、存分に悲しんだあとは、やけにすっきりとする。もちろんるりちゃんが考案した遊びで、これをやると、なぜだか絆が深まるような気がするから不思議なものだ

こういう遊びを考え付くるり姉とはいったいどういう性格の人なのか、と考えてしまいますが、そういう人なのです 子どもたちにとってヒロインであると同時に、同じ大人にとっても魅力に溢れた女性なのだと思います

3人の子供たちもそれぞれが個性的ですが、母親のけい子がまた素晴らしいキャラの持ち主です 看護師をして女手ひとつで娘たちを育てていますが、いつも疲れていて、ズボンのチャックは開けっ放しになっており、子どもたちからいつも非難されています。思わず応援したくなります

小説家の宮下奈都さんが解説に書いているように、この小説には独特の「匂い」と「リズム」があります。心温まる家族小説と言えるでしょう

 

          

 

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