にゃんこな日々

ネコ風ライフをつらつらと・・・

【映画】『月』

2023年11月04日 | MOVIE
『月』(2023/日本)
監督・脚本:石井裕也。
出演:宮沢りえ。磯村勇斗。二階堂ふみ。オダギリジョー。

夫と二人慎ましく暮らす洋子は障がい者施設で働くようになる。彼女は受賞作を持つ有名な作家だった。心臓の障害を持つ息子を三歳で亡くしたことから、彼女は筆を折る。全く書けなくなってしまったのだった。夫の昌平の仕事はアルバイト。家では映像作品を制作していた。洋子が働くことになった施設は森の奥に位置するような場所で、そこで働く陽子は作家志望でネタ探しのためにここで働いているのだという。さとくんと呼ばれる青年は施設内の利用者たちに紙芝居を作って見せてあげるまじめな優しい青年だった。しかしその施設内では虐待が行われ、施設長も見て見ぬふりをする・・・そんな施設だった。

ここからはネタばれなしには書けないので、とりあえず改行。


実際の事件の犯人を擁護したいのか?誰でも彼になりうると言いたいのか?確かにあの事件があったとき、彼の意見に同調する人もいた。生産性のない人間は必要ないのでは?そんな言葉もみかけた。それは個々生きるという意味、人間という存在に対するそれぞれの思いの中で意見として持っていてもいいものではあると思う。でもだからと言って必要ないと断罪する権利は誰にもないはずだ。この作品の中でさとくんは言う。「僕はやるときちゃんと聞きますよ。あなた心がありますか?って」。心がないってなんでわかるの?なぜ君が決めるの?洋子が亡くした子供は心臓疾患があった。そして彼女は言うそれは病気だと。3歳まで言葉を話さなかった、話せなかった。障がい者だと。洋子が書けなくなった理由には子供が亡くなった悲しさからだけではなく、障害を持った子が亡くなって、もしかしたらホッとした部分もあったからなのではないだろうか? ここでの洋子は話せない子供と心を通わすことが出来なかった。障がい者に心がないと決めつけるさとくんと同じだったのではないだろうか?だから子供が亡くなったことで本当の悲しみの中必死に明るく過ごそうとする夫昌平と向き合うことが出来なかったのではないだろうか?
そして再び妊娠した洋子は次の子供もまた障害を持って生まれてくるのではないか?その思いから夫に言わずに中絶しようとさえ考える。そしてこのことでさとくんから僕と同じだ。「障害がある子はいらないって思ったんですよね」
はっきり言ってここ余分だったと思う。この作品余計なことが多すぎる。中絶云々のくだりはいらないだろう?3歳で亡くなってしまった子供と心通わすことが出来なかった思いに苦悩し、同じく話せない動けない利用者を見て、本当に何も見えないのだろうか?何もわからないのだろうか?と心がゆっくりと動く様をみせればよかったんじゃないのだろうか?作家志望でネタ探しのために働いているという陽子。父親に虐待されて、その父親は浮気していて・・・。いるかこれ?そもそも陽子いるか?で、さとくんの彼女聾唖者という設定。いるか?彼が話が出来ないというのではないところで殺害を企てたってことを強調したかったのか?
あ、あと妊娠がわかってからの話で出てくる出生前診断。優性思想的なこともいれたかったのか、本当に欲張りすぎ。散らかしすぎ。
さとくんが壊れていく様もまあなんとも安直で(苦笑)。この仕事は給料安いし大変なんッすよぉ。ってなんともちゃらい描き方。食事介助の場面はあったけど、あとはちゃらちゃら歩いていただけじゃん。で、虐待。突き飛ばす部屋に放り込む。懐中電灯を当ててこうするとてんかんの発作起こすんですよ。てんかんの発作誘発させるってのはひどいことだけど、映像として結局簡単な方法でしか虐待を描いていない。しかも何あれ。開かずの間?糞尿にまみれた汚いおっさんがマスかいている。ふざけんなよ。さとくんの気持ち、こんな人はいらないというのを強調させるための演出なんだとは思うけど、もうこれって悪意しか感じないよ。確かに施設で虐待って行われているんだと思う。事件にもなっている。だけどね、常識で考えて糞尿にまみれさせて放ったらかしにしていたら、後からしんどいの介護者だからね。おむつつけても何回も自分ではずす人っているらしいけど。でも介護の仕事はしんどい。こんな人必要なんだろうか?と思わせる演出なら手を抜かずに必死に介護してきれいにして、それなのにおもつはずして壁になすりつけるとかって、リアルで大変な描写入れた方が現実的だし、まじめな分壊れるかも・・・って思えると思うんだけどね。ほんと手を抜きすぎ。

私は介護従事者だ。好きでなったのではない。これしか仕事なかったんだ。だからあっちこち点々としたよ。点々としたからこそしんどいのも壊れてしまう可能性もわからなくはない。でもねぇ、あの事件をモチーフにしているのなら、もっとちゃんとした描き方あっただろうとはっきり言ってむかついている。
私の働く事業所のイベントでやまゆり園の事件の追悼の講演会のようなものがあった。そこで献花台に置かれるデジタルフォトフレームに映される写真だけ見せてもらった。名前と写真を公表している人は少なく、それがない人たちはラジオや花のイラストだった。でもそのラジオのイラストであらわされる人はいつもラジオが好きで聞いていたそうだ。花が好きだった人。写真を公表しているはとてもかわいい女の子だったり、笑顔が素敵で穏やかな顔をした老齢な人だったり・・・。彼らのどこが心がないんだろうか?何をもってして心がないと言い切るんだろうか?会話が出来ないから?言葉を話さなくても会話はできるんだよ。目は口ほどに物を言う。彼らも嫌いな人には目を合わせない。
確かに重度障碍者の終生保護施設での仕事は大変だと聞く。私が働いているところは地域福祉型の小規模施設なので、そんなに大変なことはない。だからこそ大変なところで壊れそうな心と戦いながらも、この仕事を誇りを持ってやっている介護従事者をもバカにしているようで腹がたつんだ。
陰気な施設、陰気な介護者・・・そして陰気な利用者・・・悪意しかないだろう?

-2023.11.11 MOVIX堺-







【映画】インド大映画祭

2021年10月24日 | MOVIE
2日間で4本のインド映画を観たので、とりあえず覚書程度にサクッと感想を。
『Mr.ハンサム』主演:スーリヤ
くる病を患ったことから猫背で背中にこぶがあり足もまっすぐではないという外見に問題のあるチンナは結婚したくても相手がみつからなかった。そんなある日盲目の女性と出会い、彼女に惹かれていくが・・・。
主人公の外見のネタや小人症の女性が出て来てその人へのセリフなど、どうも差別的でその外見を笑ってる感じが見ていて気分の悪くなるシーンが気になった。インターミッション後は純愛物語っぽくいい感じで、ウルッとくるところもあったのでよかったんだけど。そしてこの映画でつくづく思った。出っ歯って男前度を思いっきり落としてしまうのね。

『カダラムの征服者』主演:ヴィクラム
意識不明の重体患者を連れ出せと身重の妻を人質にとられた医者。そしてその重体患者を連れ出したものの、とんでもない事件に巻き込まれることになる。
これずっとひっかかってたんだけど、普通、患者を連れ出した医者の正体云々言ってる時点で普通医者の家に行って、彼が殴られた血痕を発見したり、彼の妻はどこだ!?なんてことになるはすじゃないのか?あまりにも警官仕事出来なさすぎだろ(笑)。ま、そんなことはどうでもよくなるくらいに激シブで超かっこいいんだよねヴィクラムが。

『火花-Theri』主演:ヴィジャイ
ケララ州でパン屋を営むジョゼフは娘とのんびりと暮らしていたが、ある出来事から過去が明るみになり、平穏な日々が崩れていく。
これ、始まってすぐ過去に一度見たことがあることに気付いた(笑)。初めて観たヴィジャイ作品がこれだったんだ。ラジニ映画の流れを汲むタミル映画(笑)。今は平凡なおとなしい人だけど、実は過去に!・・・よくあるパターンです(笑)。

『NGK』主演:スーリヤ
有機栽培農家をやっているクマランは、畑を焼かれ、州議会議員に助けを求めたことで入党し、政界に入ることになる。そして持ち前の頭脳で政界を渡って行くが・・・。
インド映画って意外と政治腐敗もの多いんですよね。なんだか日本の時代劇のような見事な腐敗っぷり(笑)。しかし、高学歴で頭がキレて、まではいいけど、なんであなたそんなに強いのですか?と言っちゃあいけないのがインド映画か(笑)。後半演説会場に向かうクマランと妻。なぜここにきて自転車で?理由はすぐに明らかになります。商店街で刺客に襲われないといけないから。見事なくらいに潔いご都合主義!
だからインド映画はやめられない(笑)。

※のんきに自転車をご都合主義なんて言ってたことをここにおわび致します。まさかのラストの意味。これアップしたあとに知り驚愕しております。マジ怖い。本当のラストの意味怖すぎです。そしてこのラストの意味を知ると妻と二人自転車で出発する主人公の行動の意味にすごく納得する。これはもう一回みたい。(2021/10/27追記)

ちなみにこれ4本ともタミル映画です。
というか今回シネ・ヌーヴォであったインド大映画祭の作品はすべてタミル映画でした。7作品のうち4作品拾えたんだから今回はラッキーだったな。

【映画】『スペシャルズ! 政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話』

2020年09月14日 | MOVIE
『スペシャルズ! 
   政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話』Hors normes(2019年/仏)
監督:エリック・トレダノ。オリビエ・ナカシュ。
出演:ヴァンサン・カッセル。レダ・カテブ。

自閉症ケア施設「正義の声」を運営するブリュノ。彼はどんな問題を抱えていても断らないため、施設の部屋は満室。施設外の子のケアもしているため毎日大忙しの日々を送っていたが、無認可で赤字経営の「正義の声」に政府の監査が入ることになる。それでもいつもの「何とかする」の口癖だけで事態は改善されることはなく、新たに病院から依頼された重度の自閉症児であるヴァランタンの症状を改善させるための外出の仕事を受けることに。そのスタッフをブリュノは「寄港」というドロップアウトした若者たちを支援員として就労させる訓練施設を運営している友人マリクに依頼。マリクは入ったばかりで遅刻の多い問題児であるディランをヴァランタンの担当につける。ディランとヴァランタンの距離が縮まってきたある日、事件は起こってしまう。

しかしこの邦題は一体なんなんだろう?長いよ。映画の内容をわかりやすく・・・の意図なのかな?予告みるとコメディっぽい感じだからコメディだと思われると困るとでも思ったのか?
原題の「Hors normes」は規格外という意味だそうです。確かに「正義の声」は規格外だ。普通のアパートを施設にしていて他の階には施設は全く関係のない住人がいる。一部屋に入れられるだけのベッドを入れて入居者数を増やして、スタッフはほとんどが無資格。まあ施設自体が無認可なんですが・・・。でも「正義の声」という施設名がすべてを物語っているような気がする。この映画の中でも描かれていましたが、病院に入れられて閉じ込められる。他害、自傷をおさえるために投薬する。でもそれでは何も解決しない。かと言ってちゃんと解決しようとするとすごい労力がいるんですよね。それは規格外の「正義の声」だから出来ているという描き方がうまいです。そして自閉症児たちがすべてリアルで、すごいなぁって思ってみていたら、みんな俳優ではなく実際に自閉症の人たちだとか・・・そらリアルだ。電車に乗っては非常ベルを押してしまい駅員に捕らえられてしまうジョゼフも俳優ではなく素人の自閉症の人で、ヴァランタン役もオーディションで選ばれた子で彼には深刻な自閉症の弟がいるとのことで、間近で接しているからか、素人とは思えないリアルな演技です。いろいろ考えさせられるところはありますが、コメディタッチでいい感じに力が抜けているのがいいです。そういえば「最強のふたり」も見事にコメディしてたな。

-2020.9.14 TOHOシネマズなんば-

【映画】『WAR ウォー!!』

2020年08月06日 | MOVIE
『WAR ウォー!!』WAR(2019年/印ヒンディー)
監督:シッダールト・アーナンド
出演:リティク・ローシャン。タイガー・シュロフ。アシュトシュ・ラーナー。

インド政府の諜報機関RAWのカビールが味方の高官を射殺した。RAWの指揮官ルトラ大佐は直ちにカビール抹殺の指示を出す。そのミッションに名乗りをあげたのはカビールの教え子であり部下であったハーリドだった。二人の関係が近すぎるとルトラ大佐はハーリドのチーム参加を拒否するが、だからこそカビールの行動が理解しやすいとルトラ大佐の反対を押し退けカビールを追うことに・・・。

私がインド映画を観だした頃、このタイガーの役どころがリティクだったのに・・・。
この作品ではすっかり先輩立ち位置、オジサマ立ち位置でした。46歳だそうです。それなのになんなんですかあのダンスの切れは!素晴らしい。かっこよく年取ってます。
実は私この作品タイガーが主演で、脇をがっちり固めるためにリティクなんだと思っていたんですよね。でもどうもリティク主演のようですね。W主演的ではあるんですが、最後はおいしいところリティクが持っていきます。女性の出番の少ないガチ男臭いアクション映画で、アクションもダンスもかっこいい。タイガー・シュロフは『フライング・ジャット』の優しいイメージそのままの真面目なかわいい部下で、さわやかでいいなぁと思っていたら・・・。若いけど巧い俳優さんですよねぇ。ダンスもうまいし、アクションもすごい。今後の彼の作品が楽しみです。しかしこの作品リティク主演でシリーズ化してもおかしくない作りだね。

-2020.8.1 塚口サンサン劇場-

【映画】『ジョジョ・ラビット』

2020年01月31日 | MOVIE
『ジョジョ・ラビット』Jojo Rabbit(2019年/米・独)
監督:タイカ・ワイティティ
出演:ローマン・グリフィン・デイビス。スカーレット・ヨハンソン。サム・ロックウェル。

第二次世界大戦下のドイツ。ヒトラーを信奉する10歳の少年ジョジョ。彼の友達、空想上のアドルフ・ヒトラーに鼓舞されながらヒトラーユーゲントで立派な兵士になるために訓練に励むが、訓練でウサギを殺すことが出来なかったことから「ジョジョ・ラビット」というあだ名をつけられてしまう。本当は臆病で優しいジョジョは、ある日母と二人暮らしの家の二階の隠し部屋に一人のユダヤ人の少女がいることに気付いてしまう。

私はこの映画の情報を全くいれずに見に行った。だから冒頭、ヒトラーが出て来て彼と仲良く話す少年が出かけるシーンに、ただ普通の学校に行くのにも、ナチに心酔する彼はヒトラーと同じく空想の世界で立派な兵士になるために訓練するんだ!と言っていると思っていた。ところが、まさか本当に10歳の少年を兵士にするための訓練があるなんて!戦争の狂気は真っ当な判断が出来るはずの大人でさえ、妄信的に自分たちが善なんだと思い込まされるのですから、10歳の少年がナチに心酔したって当然で、純粋な子供たちを培養するのはたやすいことなんでしょうね。
彼の父親は兵隊に行って逃げたと言われている。彼の姉はすでに亡くなっていて、その亡くなった理由は語られない。そしてなぜジョジョがナチに心酔するのか?それもこの映画の中では語られることはない。コミカルに描かれる戦争映画。そのためにリアルになる部分を排しているのかもしれませんね。
この映画の中では靴が印象的に使われている。自分の靴紐を自分で結ぶことができないジョジョ。踊る母の足元。そして・・・。母が結んでくれたはずの靴紐が母のいたずらで両足を結ばれていたためにこけてしまうジョジョ。ラスト、ユダヤ人の少女の靴紐を結んであげるジョジョ。
アウシュビッツで亡くなったユダヤ人の靴やカバンが多く残されていたということから、この映画で描かれる靴がとても気になった。母の結んだ靴紐でこけてしまうジョジョのシーンは人任せにするとこんなことにもなるよという暗示で、靴紐を結べるようになったジョジョのシーンは彼の成長を描いていて、そして彼が結ぶ靴紐がユダヤ人少女のものだということにも意味があるような気がした。
コミカルだからこそ、要所の描き方が心にしみた作品です。
ジョジョ役のローマン・グリフィン・デイビスは本当にかわいいし。母役のスカーレット・ヨハンソンもいい。そして何よりサム・ロックウェルかっこよすぎです(笑)。

-2020.1.27 MOVIX京都-

【映画】『リチャード・ジュエル』

2020年01月21日 | MOVIE
『リチャード・ジュエル』Richard Jewell(2019年/米)
監督:クリント・イーストウッド
出演:ポール・ウォルター・ハウザー。サム・ロックウェル。キャシー・ベイツ。

1996年7月27日、五輪開催中のアトランタの会場近くの公園で爆発物が発見される。発見者は警備員のリチャード・ジュエル。彼のおかげで爆発前に多くの人が避難することができたが、その爆発で死者二人と100人以上の負傷者を出す大惨事なった。一躍英雄となったリチャードだったが、FBIは第一発見者であるジュエルを自らを英雄とするために事件を起こす犯罪者の型にはめ、彼をマークする。そしてそれがマスメディアにリークされ、一転して犯罪者としてFBI、マスコミから貶められていくことになる。ジュエルはかつての職場で知り合った弁護士ワトソン・ブライアントに助けを求め、自らの無罪の証明のため立ち上がる。

とても気になる映画だった。でも最近、善悪のはっきりする作品、悪意に満ちた登場人物が出てくる作品は、耐えられなくて楽しいと思える作品しか観ないようにしているので、ちょっと躊躇してたんですよね。ところがこの作品を観終わって、観る前に思っていたものと違って・・・いや、違わないんですが、なんていうのか、胸糞が悪くなるくらいに嫌な奴って出てこないんですよ。FBIの捜査官は多少むかつきましたが、でもなんだろう証拠を捏造したりとかするわけではないから、そんなにむかつかないんですよね。小狡いこともするんだけど、結局うまくいかなかったりするし、手出しが出来ないくらいに巨大な権力組織というイメージがあまりなかったような気がする。そしてまず最初にジュエルが犯人だと報道した女性記者キャシー・スクラッグスも、犯行の電話がかけられた公衆電話までジュエルが行くことができないという確認をするシーンがあったり、記者会見でジュエルの母が訴える言葉に涙するシーンがあったり、これらはもうイーストウッド監督の巧さでしょうね。単純にこいつらが悪い奴。という描き方をしていない。観ているものの気持ちを片側に傾けることはしないようにしている気がする。そして一般視聴者が「人殺し出ていけ!」なんてジュエルを罵るシーンは全くいれていない。実際はそういうこともあったような気がしますが、ジュエルはかわいそうな被害者なんだという視点で描かれた作品ではないからなんでしょうね。弁護士ワトソンから何も話すなと言われているのに、同じ法執行官だからとか、お調子者っぽく話してしまうジュエルに見ていてあきれ返ってしまうシーンもあるし、とにかく善悪を描こうとはしていなんですよね。だから余計に物語に引き込まれていく。ラストも清々しかったし、すごい作品です。FBIの事務所でジュエルの言うセリフこそ、監督が描きたかったものだんじゃないかなぁって気がする。他の誰かがまたどこかで同じように爆弾をみつけても、ジュエルみたいになると困るからと通報しなくなる。メディアも一般視聴者である我々も簡単にヒーローを作って、片一方で簡単に悪人も作る。ヒーローなんてそう簡単になれるものじゃない。ジュエルの行動はヒーローになりたくてとった行動ではない。ただただ自らの仕事として、正しいことをしただけ。彼をヒーローに祭り上げなければ、このあとの悪人に貶めることはなかっただろう。この時代にSNSなんてあったら、ジュエルの人生はもっと恐ろしいものになっていたかもしれない。今だからこそもっと考えないといけない問題かもしれませんね。

-2020.1.20 なんばパークスシネマ-

【映画】『燃えよスーリヤ!』

2020年01月07日 | MOVIE
『燃えよスーリヤ!』Mard ko Dard Nahi Hota(2018年/印ヒンディー)
監督:ヴァーサン・バーラー
出演:アビマニュ・ダサーニー。ラーディカ―・マダン。グルシャン・デーヴァイヤー。

生まれながらの無痛症で、いつもいじめっ子たちに標的にされていたスーリヤ。そんなスーリヤをいつも守ってくれた幼なじみの少女スプリが守ってくれていた。祖父から見せられたアクション映画の世界にはまり、生まれてすぐ母がひったくりにあい死んでから人一倍の正義感を持つスーリヤは大変な事件を起こしてしまう。無痛症であるが故に4年で死んでしまうと言われた息子をこのままにしておけないと半ば監禁のような生活を強いる父だったが、祖父のアドバイスで彼は父に内緒で独自のトレーニングを積んでいた。やがて成長し、父からの監禁も解けたスーリヤは昔あこがれた「空手マン」のポスターを見つけたことから再び出会ったスプリと共に「空手マン」を救うために戦うこととなる。

いやぁ、なんなんだろう、このグダグダ感は(笑)。後半のアクションシーン連発は、とても面白く観られたし、楽しめたんだけど、全体のストーリーがなんだかなぁ~な世界。これだったらインディアンムービーウィークの特集でかかってる作品のどれかを一般公開した方が絶対に面白いよ。なんでこれなんだろ?と思ってググったら・・・なるほど第43回トロント国際映画祭ミッドナイト・マッドネス部門で観客賞を受賞というのがあるのね。アクションシーンはホント面白いんだけど・・・ねぇ。しかもスーリヤってさ、私が好きな『ダラパティ』でラジニ様演じる主人公の名前なんですよね。だからこの名前好きでさ、ゲームの主人公に名前つけるときはスーリヤを使ってたくらいなのに・・・。なんなんだよこのスーリヤは、強いのはいいけど、ちょっとおつむ足らなすぎないか?まぁそういう設定なんだけどさぁ。設定は面白いのにアクションに流れていくまでのストーリーがつまんないうえに、スプリの設定もなんだかイマイチ。年始から連発で見たインド映画のラストがこれだとすっきりしないなぁ。NETFLIXでなんか物色しよう(笑)。

-2020.1.6 大阪ステーションシネマ-

【映画】『'96』

2020年01月06日 | MOVIE
『'96』'96(2018年/印タミル)
監督:C.プレームクラーム
出演:ヴィジャイ・セードゥバティ。トリシャー・クリシュナン。

旅行写真家で写真学校の教師でもあるラームはある日、久しぶりに母校に戻ってくる。それがきっかけで'96卒業生の同窓会が開かれることになる。そしてそこにはラームの初恋の女性ジャーヌもシンガポールからやってくる。遠い昔結ばれかけた二人。しかしラームの家族の事情で離れてしまった二人。同窓会が終りジャーヌをホテルに送っていくラーム。夜明けの飛行機の時間まで語られる二人の22年間の物語。

今は結婚して娘のいるジャーヌ。そして22年前の二人のことも知っている同級生たちは二人を会わせたいが、何かあっても困るとやきもきする。その描写がとてもいい。なんていい友達たちなんだ。22年前と変わらずジャーヌの前ではおどおどするラーム。ジャーヌへの思いを未だ終わらせることの出来なかったラームと、その思いを封印して新しく22年間を生きてきたジャーヌ。その二人の昔語りが切なくていとおしくて、とても美しい。ラームちょっぴりストーカー入ってますが(笑)。ラームに今幸せか?と問われて、幸せ?と考えて平和よ。と答えるジャーヌのセリフが素晴らしい。本当の幸せは一緒になれなかったラームとの生活への思いかもしれない。ラームの想い出の箱に新たに増える想い出の品。22年前からずっとジャーヌへ歌って欲しいとリクエストしてきて、一度も歌ってくれることのなかった「ヤムナー川で」を歌うシーンも素敵だ。ラームはこれからも一人だろうか?私はそうはならないような気がする。ラームの生活は幸せでも平和でもない、きっと平和な生活をみつけるような・・・そんな気がする。
ラームがずっとリクエストしていた「ヤムナー川で」これどっかで聴いたことあるなぁって思ってて偶然一緒になったインド映画仲間に聞いたら「ダラパティ」の挿入歌だと教えてくれた。「おぉ!」なるほど・・・「ダラパティ」もある意味悲恋ものですからねぇ。私大好きですけど。
この曲です。いい曲ですよ。Yamunai aatrile

-2020.1.5 神戸国際松竹(インディアンムービーウィーク)

【映画】『フライング・ジャット』

2020年01月05日 | MOVIE
『フライング・ジャット』A Flying Jatt(2016年/印ヒンディー)
監督:レモ・デソウザ。
出演:タイガー・シュロフ。ジャクリーン・フェルナンデス。アムリータ・シン。

化学薬品工場が工場の稼働率をあげるために橋をかけようとするが、その橋の建設場所にはシク教徒の神木があることから、その土地の持ち主である武術教師アマンの母は断固として土地の売却を拒否していた。しかし気弱なアマンは工場のオーナーであるマルホートラに逆らわない方がと母を宥めるが、母は聞く耳を持たない。そんなある日強引に木を切ろうとやってきたマルホートラの用心棒ラカと鉢合わせをしたアマンは必死にラカと戦う。そしてその時神木から超人的パワーを授けられラカを吹き飛ばしていた。そのパワーで街のヒーローフライング・ジャットとなったアマンの前に汚染物質を体内に取り込み悪の怪物となったラカが現れる。

ヒーローになって空を飛べるようなったが、高所恐怖症のため低空飛行というお茶目なキャラのコメディーだと思って観ていたんですが、さりげなく環境問題の痛いところついていたりとなかなかに面白い作りとなっていた。この主人公のタイガー・シュロフ。どっかで見たことあるなぁって思っていたら、ナワさんが踊る!というだけで気になってイギリスのアマゾンで買ったDVD「Munna Michael」の主役さんじゃないですか。こういうヒーローにぴったりのムッキムキでダンスは超キレキレでうまい!この作品「Munna Michael」より前の作品なんですよね。ということは「Munna Michael」もどっかでやってくれるかなぁ。日本語字幕で見たいんですよねぇ・・・ってこの作品の感想になってないな(笑)。フライング・ジャットって空飛ぶシク教徒という意味らしい。でもアマンはシク教徒であることを拒絶して髭も剃って髪も短くしていた。フライング・ジャットの衣装を手作りした母は亡くなった夫のターバンを被せようとするがアマンは拒否していた。そのターバンを被るまでの流れも秀逸だし、この悪役ラカが汚染物質を取り込んで強くなるという部分でラカを生んでいるのは環境汚染を生み出しているお前たちだ!みたいな自然保護へのアピールがこれまたうまい流れなんですよね。なんだか昔の「ウルトラマン」シリーズに似た趣を感じてしまった。


-2020.1.4 神戸国際松竹(インディアンムービーウィーク)

【映画】『サルカール 1票の革命』

2020年01月04日 | MOVIE
『サルカール 1票の革命』Sarkar(2018年/印タミル)
監督:A.R.ムルガダース。
出演:ヴィジャイ。キールティ・スレーシュ。ヴァララクシュミ・サラトクマール。ラーダー・ラヴィ。

米国在住でいくつもの企業を倒産に追い込み大富豪となっているGLのCEOのスンダルが、故郷タミルナードゥ州議会選挙への投票のためにチェンナイに一時帰国する。彼の目的は投票すること。そして投票が終ればすぐまたアメリカへと戻る予定だったが、なんと何者かが彼に成りすまし投票を終えていた。不正投票によって無くなった自分の1票を取り戻すべく司法に訴えるが、その過程で明らかになる政治家たちの腐敗。スンダルの行動は自らの1票を取り戻すだけではなくなっていく。

最初大富豪で、プレイボーイで・・・なんて出てきたものだから、軽い気持ちで見ていた。するとまず自分の1票が何者かによって不正に使われているということから始まり、腐りきった政治の数々が明らかになっていく過程で、なんなんだ!無茶苦茶硬派な映画じゃないか!と観ている気持ちに力が入る。インドの貧困とか、政治の腐敗とか、日本よりもひどいんだろうとは思う。だけど、この映画インド映画特集だけで上映なんてもったいない。ぜひ一般公開して、選挙の1票を無駄にしている人たちに見て欲しい。民主主義、市民一人ひとりがたった一日力を持つことが出来る日。それが選挙で、その1票はたかが1票では絶対にない。その力を使わずに政治に文句を言う権利なんてない!こんなにも熱く1票の重さを訴えかける映画ってないよ。そしてラストにまた彼は言う。野党のいない政治はダメだと。歌って踊ってガンガンアクションシーンもあってという超娯楽映画で、ここまでのメッセージ入れこんでくるって、やはりインド映画はすごい。私はこの映画に誓う!もう二度と選挙権を無駄にはしない!

-2020.1.4 神戸国際松竹(インディアンムービーウィーク)