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今日の筆洗

2024年03月18日 | Weblog

 1年間の禁酒を約束した男がいる。が、どうしても、お酒を飲みたい。そこで夜だけ飲むことにして代わりに「禁酒期間」を2年間に延ばした。友人がさらに提案する。「禁酒期間」を3年にすることにして、昼も夜も飲めることにしたらどうか。おなじみの小咄(こばなし)だろう▼期間を延ばしても、これでは禁酒にはならない。妙な理屈をこしらえては決めたことを破ってしまう人の弱さがおかしくも、悲しい▼心配性の小欄は時代があの男と同じ道をたどっているような気になってしまう。「禁酒」ではなく、戦後日本が立てた「平和主義」という決めごとである。日英伊3カ国で共同開発する次期戦闘機を巡る問題で、自民、公明両党は日本から第三国への輸出を解禁することで合意した▼武器輸出三原則さえ遠い昔で、時代を追うごとに武器輸出に抑制的な方針は弱められ、とうとう人をあやめる戦闘機まで輸出する国となる▼輸出したい事情や理屈はもちろんある。安全保障環境は緊迫化しており、高性能の戦闘機で備えたい。生産コストを抑えるため第三国への輸出を認めなければ共同開発がうまく進まない-。ただ、どんなに理屈を並べ、条件を加えようとも紛争を助長しかねない戦闘機を輸出できるのであれば、「平和主義」という国の決めごとは怪しかろう▼禁酒中と言いつつ、昼夜なく、だらしなく酒をあおる男が見える。


今日の筆洗

2024年03月15日 | Weblog

 巣立ちの春。大手ハンバーガーチェーンの新CMはなかなか秀逸で、上京した若い女性が慣れぬ都会で店を見かけて入り、ほっとする▼古里にある店で家族と語らった思い出が懐かしい。ナレーションが心中を伝える。「何もかもが違う街。でもここは地元と同じ匂いがした」。どこでも同じ味という安心感は、この会社の強みなのだろう▼規模は劣るが、特定の地でのみ味わえる外食チェーンもある。「炭焼きレストランさわやか」もそう。34店舗は全て静岡県内にある▼事業拡大期に店の質が落ちたと投書が来て、無理な出店を控えるようになった。丸くて大きい牛肉100%の「げんこつハンバーグ」などが看板で、県西部の磐田出身の俳優長沢まさみさんもファン。テレビで紹介されたこともあり県外での知名度も高く、東京や愛知の人も店の行列に加わる▼創業者の富田重之さんが87歳で亡くなった。若い頃に結核を患い、食は命を支えると40歳で1号店開店。命を授けてくれたのは両親だと、丸く大きい看板メニューは親の愛情を表現したという。なるほど揺るがぬ親の愛だと言われれば、あの歯応えも納得できる▼以前の講演で「最大のライバルは家庭の食事」と語った。「たまには行こう」と大切な人と足を運び、思い出を刻むだんらんの場でありたい。規模の大小を問わず、外食に携わる者なら共鳴する哲学だろう。


今日の筆洗

2024年03月14日 | Weblog
友人夫妻から貴重なキャンディーをいただく。もはや入手困難でネットオークションでは高値で取引されているというが、幸運にもご近所のスーパーで買えたという。それで「あなたにもあげたい」と▼この味ともお別れとは、寂しくなる。お菓子の明治が「チェルシー」の出荷を今月でやめるそうだ。発売は1971年。あの時代に子どもだった人はもちろん、幅広い世代がロングセラーの引退にがっかりしているだろう▼黒地に花柄模様のパッケージが懐かしい。そうそう。この緑の花柄はヨーグルト味。で、赤いのはバター風味。小学校の遠足やとっくに閉じてしまった故郷の駄菓子屋さんへと記憶が連鎖していく。<なつかしい人に出逢ったような>-。当時のCMソングを思い出す。<なつかしい人>が去っていく▼新しいキャンディーとして名をはせた、「チェルシー」も最近は売れ行きが芳しくなかったと聞く。軟らかいグミなどが好まれ、硬いキャンディーが敬遠される市場傾向の中、生き残るのが難しかったか▼なくなると聞いて、おおげさに寂しがってはいるものの、小欄も実はもう十数年、口にしたことはなかったのだから、消費者とは勝手なものだ▼「チェルシー」の名は英国の地名とか。CMの金髪の女の子の名が「チェルシー」でそこからきているのだ-と約50年間、勘違いしていたことを別れ際に知る。
 
 

 


今日の筆洗

2024年03月13日 | Weblog
森繁久弥さん主演の喜劇映画「社長シリーズ」で欠かせぬのは三木のり平さんの演じる「宴会部長」だろう。仕事の方はからきしだが、宴会や接待となると大張り切りで口癖は「ぱーっといきましょう。ぱーっと」▼のり平さんによるとこんな人物として演じていたそうだ。子だくさんな上にこわいおかみさんがいる。おこづかいに不自由しているので会社のお金を使って酒を飲みたい、芸者さんと遊びたい。情けない人物だが、当時ならまだ理解できるところもあったか▼この時代に品のない懇親会を「ぱーっと」やっていたと聞けば、あの「宴会部長」も腹を立てるかもしれない。しかも開いていたのは政権を担う自民党。同党和歌山県連が主催した会合にあられもない姿の女性ダンサーを招いていた問題である▼党青年局の国会議員や近畿ブロックの地方議員が参加し、中にはダンサーさんに触り、口移しでチップをあげる人物もいたという▼女性を性的にモノ扱いするような時代錯誤な宴会を政治家が喜々として開いていれば、世間が許すはずもない。時代を読むべき政治家が時代に目をつぶっている。その無神経さに腹が立つ▼「宴会部長」役だったらしい和歌山県議は責任を取って、離党した。ダンサーを招いたのは多様性について問題提起するためと説明していた。苦しい言い訳にまず噴き出し、その後で泣きたくなる。
 
 

 


今日の筆洗

2024年03月12日 | Weblog
思春期にあった少年は母親とこんな「論争」をよくしていたそうだ。母親はこう主張した。「人っていうのは愚かなものなんだよ」「仕方がないものなんだ」。欲やウソなど人にはどうしようもない部分があるという意味なのだろう▼少年はうなずけなかった。人間の愚かさなど信じたくなかったか。「そんなことはない」と反論し、いつも言い合いになっていた▼少年とは宮崎駿監督。宮崎監督の映画『君たちはどう生きるか』が米アカデミー賞の長編アニメーション賞に選ばれた。2度目の受賞。一度は引退を口にした監督が83歳にして今なお世界のトップランナーにいることを示した▼冒頭のエピソードはかつてのインタビューからお借りしたが、受賞作の主人公「眞人(まひと)」と人の愚かさを信じたくなかった宮崎少年が重なってならない。ただし「眞人」の方は宮崎さんの母親寄りになっていく。人の弱さや愚かさを認め「悪意」さえ持っていることを受け入れた上でそこから先、「どう生きるか」を模索する存在なのだろう▼正義か悪かの二元論に分かれ、対立しやすい時代にあって互いに手を取り合うことで、人の愚かさを埋め、乗り越えていこうと示唆しているとみた。その視座を対立に苦しみ、疲れる世界が評価したと信じる▼「再生」の物語でもあった。となれば、宮崎さんの「次回作」をどうしたって期待してしまう。
 
 

 


今日の筆洗

2024年03月11日 | Weblog
 『審判』などの作家、フランツ・カフカがある日、公園で泣いている少女に出会った。大切な人形をなくしたという。一緒によく捜したが、見つからなかった▼翌日、カフカは人形から預かったと一通の手紙を女の子に手渡した。「悲しまないで。世界が見たくて旅に出ました。また手紙書きますね」。別の日には「学校に入って、いろんな人と出会いました」。また、別の日には「あなたが大好きです」-。もちろん手紙はカフカが書いていた。カフカと交際のあった女性の回想に基づく物語だそうだ▼東日本大震災から13年となった。ハクモクレンが真っ白な花弁を広げるころだった。震災の日にカフカの手紙の温かさを思う▼真偽は分からないが、カフカは作品の執筆以上に手紙に熱心だったそうだ。何かを失う。誰かと別れる。女の子の悲しみが寂しい幼少期を送ったカフカにはよく分かっていたのだろう。あの手紙のようにわれわれは震災の痛みの背を今もさすり続けているか。もう大丈夫と決めつけてはいないか▼現地の痛みは歳月の分、薄らぐことはあっても帰らぬ人、かつての故郷を思い出せば、その悲しみは何年たとうと消えることはあるまい▼遠ざかる記憶に被災地への関心や思いやりまで遠ざけたくない。わが身に置き換え、あの日起きたことを思い続ける。それは決して災害への備えとも無関係ではあるまい。
 
 

 


今日の筆洗

2024年03月09日 | Weblog
愛知生まれの漫画家、棚園正一さんは40代。小、中学校時代は不登校で自分は「普通の子」でないと悩んだ▼心の支えは少年ジャンプに載る鳥山明さんの漫画『ドラゴンボール』。家で独りキャラクターの絵を描き、自分の漫画作品もかき始めた▼母が鳥山さんの小学校時代の同級生で、人を介して中1の時に会えた。学校に行かなくても漫画家になれるかと聞いたら「行かなくてもなれるけど、行った方が学校の話とかをかけて便利かも」と言われ、その程度のことかと楽になった。普通であることへの呪縛を解く言葉だったらしい▼鳥山さんが亡くなった。愛知が生んだ人気漫画家の作品は世界で愛された。思えば、出世作『Dr.スランプ』も「普通」と縁遠い世界だった▼人型ロボットのアラレちゃんが騒動を起こす舞台のペンギン村は人間も、しゃべる動物も、怪獣も共存する。宇宙から地球征服に来て失敗したニコチャン大王にも居場所がある、ゆるい空間。ウンチの形のうんちくんもいた。ハチャメチャさに夢中になり、ひとときでも夢中になれたから救われた。そんな子はどれほどいただろう▼以前に地元の清須市立図書館が広報紙にインタビューを掲載した。「ペンギン村のモデルは清須説」をただすと、答えは「モデルなんて存在しません。あんな変な村、あるわけないですもんね」。本当は、どこかにある気もする。
 
 

 


今日の筆洗

2024年03月08日 | Weblog
 昭和1桁生まれの作家、故・半村良さんは自転車に乗るのが好きだったという▼子どものころから東京中を乗り回し、高校を出て問屋に勤めてからもよく乗ったと書き残す▼少々危ない走り方もしたようだ。「神楽坂のてっぺんで自転車をとめて、下の信号が変りそうになるのを見すましてブレーキをかけずに一気に走りおりるんです。車の手入れがいいと交差点を突っ切って、こがずに九段高校の裏のほうまで登って行けるんですよ」▼のどかなころなら大目に見られた乗り方にも、厳しい目が注がれる時代になった。自転車の悪質な交通違反に反則金を納めさせる、いわゆる青切符の取り締まりを始めるべく改正法案が閣議決定された。成立すれば公布から2年以内に施行されるという▼対象の違反は100を超す。信号無視、一時不停止、ながらスマホの運転…。ながらスマホの自転車が歩行者を死に至らしめた痛ましい事故もあったし、歩いていて高速自転車に肝を冷やすことは珍しくない。この際、マナーが改善され、導入後もお巡りさんの出番が少ないのが望ましいと思える▼半村さんは自転車愛をつづった文の中で自動車の危なさを憂え、こうも書いている。「人間にはね、不注意に道を歩く権利だってあるんだ」。歩行者優先とは則(すなわ)ち、そういうことかも。車であれ自転車であれ、運転時に思いだしたい言葉である。
 
 

 


今日の筆洗

2024年03月07日 | Weblog
 無実の殺人事件で、終身刑となった銀行員が20年がかりで刑務所からの脱獄を図る…。こう書き出せば何の話かもうお分かりか。米映画の『ショーシャンクの空に』である▼作品のテーマは希望の大切さなのだろう。主人公はどんなに過酷な状況にも決してあきらめない。「忘れないで。希望っていうのは良いものなんだ。たぶん一番」-。主人公のせりふを思い出す。ある女性がこの映画の大ファンだとおっしゃる。米大統領選挙の共和党候補選びでトランプ前大統領に挑む、ニッキー・ヘイリー元国連大使である▼ヘイリー氏にとっては映画の筋立てとはまるで異なり、希望の見えない火曜日の結末だろう。候補選びの最大のクライマックスで15州の投票が集中する「スーパーチューズデー」。ほとんどの州でヘイリー氏はトランプ氏に敗れた▼トランプ氏も民主党のバイデン大統領のいずれも大統領にふさわしくない-。その訴えもトランプ氏の大統領再選に燃える保守層の「岩盤」を突き崩すには至らなかった▼加えて連邦議会襲撃事件に関与したとしてトランプ氏の立候補資格を剝奪したコロラド州最高裁の判決を連邦最高裁が破棄。これもヘイリー陣営には逆風となる▼あの映画の主人公は小さなハンマーで刑務所の壁を崩していったが、へイリーさんのハンマーの方はもはや、折れたか。選挙戦からの撤退も伝えられる。
 
 

 


今日の筆洗

2024年03月06日 | Weblog

 どこかのお武家の若様。庭で穴の開いた銭を拾うが、これが何だか分からない。若様、思いついた。「これはおひなさまの刀の鍔(つば)ではないか」-。落語の「雛(ひな)鍔」である▼若様の様子を脇から見ていた植木屋の熊さんがしきりに感心する。おひなさまの鍔とはうまい見立て。それに銭を知らないとはなんと鷹揚(おうよう)で上品な。若様に比べ、同じ8歳のウチのガキが情けないと嘆く。「あいつは始終、銭くれ、銭くれとまとわりつきやがって」▼熊さんも驚く、子どもの金銭トラブルだろう。名古屋市内の小学6年生男子が数百円程度の記念メダルを純金だと同級生にだまされて、高額な値段で購入してしまったという▼メダルや海外紙幣などを売りつけられ、だまし取られたとされる額は合わせて約93万円。わが身には小学生時代どころか最近も縁のない額に腰を抜かす。「金は値上がりする」「珍しい」と持ちかけられたと聞けば、いっぱしのセールス話術で、およそ小学生とは思えぬ▼おそらくはこちらの認識が甘い。今どきの小学生はおカネの万能さも売買によるうまみもよく分かっているのだろう。こういう子どもの金銭トラブルは実は隠れているだけかもしれない▼一方、子どもが分かっていないのはその怖さである。おカネに目がくらんでしまえば同級生をだまし、傷つけるようなこともしかねない。教えたいのはそこである。