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今日の筆洗

2024年03月05日 | Weblog
米国の地理学者で明治期に日本を訪問したエリザ・シドモアは相当な買い物上手だったらしい。お得意の値引き方法について『シドモア日本紀行』に書いている。お店ではとにかく「高い」と日本語で訴えるのだそうだ▼売り手が交渉に乗ってきたなら、なおも「たくさん高い」「オソロシ高い」「途方モナシ、高い」。この妙な日本語がコツで「大げさで古典的表現の日本語を使うと、商人はびっくり仰天し、往々にして値段が下がる効果があります」。ほほ笑ましいやりとりやユーモアが値引きに効果を上げたのだろう▼ユーモアも人情のかけらもない悪質な値引きがあったものである。日産自動車。自動車部品を製造する下請け業者への代金を取り決めていた金額から一方的に引き下げて支払っていたそうだ。違法な減額は30社以上に対し計約30億円に上るという▼コストを抑え込む狙いがあったらしいが、たまらないのは一方的に代金を値切られた下請け業者である。取引を打ち切られる可能性を思えば、こんな因業なやり方にも文句は言いにくかったはずだ▼公正取引委員会が下請法違反(減額の禁止)にあたるとして再発防止を求める勧告を行う方針だそうだ▼日産はうまく値切ったつもりだったかもしれないが、結局、減額分を支払うはめに。おまけに会社の評判や信頼の値も下げた。買い物上手とは縁のない話である。
 
 

 


今日の筆洗

2024年03月04日 | Weblog
「ファーストレディー」とは米国なら大統領夫人をいうが、1930年代のある野球チームにも「ファーストレディー」と呼ばれた女性がいた▼「ニューヨーク・ヤンキースのファーストレディー」。名選手ルー・ゲーリッグの妻エレノア・ゲーリッグさんのことを指す。ゲーリー・クーパー主演の『打撃王』を思い出す人もいるか▼ファーストレディーの呼び名はゲーリッグが一塁手だったことを掛けたシャレだろうが、現役時代はもちろん、難病と闘うゲーリッグを懸命に支えた姿が、その「称号」にふさわしかったのだろう。「この世で一番幸せな男」。有名な引退スピーチで、ゲーリッグは妻を「tower of strength」(力の塔=困難なときに頼れる人)と呼んだ▼ドジャースの大谷翔平選手が結婚を発表した。うろたえる女性ファンも多いと聞くが、お互いに支え合う「力の塔」を見つけた二刀流の今後に期待する▼別の結婚の話題になるが、こっちの方は笑えない。昨年の婚姻数(速報値)。90年ぶりに50万組を割り込んだそうだ。2022年に微増したが、つかの間のことだったか。婚姻数は今後の出生数に直結する。かくて少子化はまた加速する▼結婚が幸福に直結するとは思わない。結婚を選ばぬ経済的な事情や時代の変化もあるのは分かっていても婚姻数減に「大谷効果」をつい期待したくなる。
 
 

 


今日の筆洗

2024年03月02日 | Weblog

ロッキード事件を機に国会議員に疑惑をただす政治倫理審査会(政倫審)が国会に置かれたのは1985年。新聞の縮刷版を繰ると4月5日に設置決定の記事がある▼これと直接の因果はなかろうが、前日の紙面に自民党福田派に『同志の歌』ができた、とあった。福田赳夫元首相に頼まれた作家川内康範氏の作詞作曲▼詞に「明日の日本に想(おも)いを走(は)せて、援(たす)け合いつつ結ばれた」とある。安倍派に連なる後継派閥を近年取材した同僚らは「聞いたことがない」と言い、長く歌い継がれた形跡は確認できないが、85年の記事で中堅議員は「派の結束の固さを表す」と誇った▼自民党派閥の裏金問題を巡る昨日の政倫審に安倍派歴代幹部の4人が出た。派閥から議員に還流する金を収支報告書に記さず裏金にするしくみができた経緯など質問が核心に及ぶと知らぬ、存ぜぬ…▼知らぬなら、派に長く君臨した森喜朗元首相らに事前に聞けばいいのに「森元総理が関与したという話は聞いていない」(西村康稔氏)などとして、やっていないよう。裏金問題で解散を決めた派閥だが、歌詞のごとく助けあいつつ、嵐の通過を待っているようにも見える。明日の日本に思いはせ、悪習を詳(つまび)らかにする政治家はいないのか▼詞に「悪(あ)しきをいましめ、浄(きよ)らな花をすべての人にちりばめる」ともある。その志を思い、切なさ増す39年後の春である。


今日の筆洗

2024年03月01日 | Weblog
いい男だ。1987年、石川県の寺越友枝さんは息子の武志さんと北朝鮮で24年ぶりに再会した際、そう思ったという▼息子は13歳の時、志賀町から叔父2人と漁に出て日本海で行方不明に。87年に叔父の1人から届いた手紙で生存が分かり実現した、平壌での面会である▼記憶の中の息子はクリクリの丸刈りの中学生で、野球のバットが当たってできた傷が額にある。現れた中年男性に傷を見つけ確信し、涙を流してからまじまじと眺めて抱いた冒頭の感想。自著で「親が言うのはおかしいかもしれませんが」と断り、ほれぼれしたと明かしている。母親らしい感慨とも思える▼友枝さんが92歳で亡くなった。訪朝は66回。武志さんの一時帰国も2002年に実現した。遭難し北朝鮮に助けられたと拉致を否定する息子を信じるとして拉致被害者の家族会を離れたが、葛藤はあった▼訪朝時にこっそり真相を尋ねると黙りこむ息子。異国で一定の地位と家庭を得ている。連れ戻したいが、自分が「拉致だ。返せ」と言えばどうなるか。思いをのみこみ、通えば会える。監視がつき、全て本音で語りあえないとしても▼家族会を離れる前、横田めぐみさんの母早紀江さんがこう言ったという。「友枝さんが決めていいんですよ。信じる道を。武志さんの母親は一人だけですから」。息子のために耐え、愛情を注いだ母。安らかにと祈る。