1962年、ケネディ米大統領の誕生祝賀会でマリリン・モンローが歌った、「ハッピーバースデー、ミスタープレジデント」。あだっぽい歌声を思い出すが、歌詞に企業の名が出てくる▼米鉄鋼大手のUSスチール。<大統領、あなたが成し遂げたすべてのことに感謝します。あなたの勝利した闘い、あなたのUSスチールへの対処法…>。時期からしてUSスチールなどが一方的な値上げに動いた際、ケネディが強く非難し、値上げを撤回させたことを指しているのだろう▼どうやら、現在の大統領も大統領候補も同社への「対処法」で称賛を集めたいらしい。日本製鉄のUSスチール買収問題である。トランプ前大統領が買収を認めぬと発言したのに続き、バイデン大統領も反対姿勢を示した▼橋、鉄道、自動車。その鉄で、20世紀の米国の発展を支えた同社は長い間、国の繁栄と強さを象徴する企業だった。今や世界との競争で後れを取り、衰えたとはいえ、同社が海外企業に買収されるとなれば、米国民の心情として認めたくないところもあるのだろう▼時期も悪い。本社のあるペンシルベニア州は大統領選で民主、共和両党がしのぎを削る激戦州。企業同士が合意した買収だが、バイデンさんもトランプさんも地元の反対論を敵に回せない▼岸田首相の4月訪米でどうなるかだが、円満な「対処法」は当分、期待できまい。