「旗を揚げる」とか「旗印にする」。この場合の「旗」には理念や理想、方針という意味があるのだろう▼東京五輪の開会式で、新たな「旗」が掲げられた。これまでは一人だった旗手を男女一人ずつの計二人で行うことにした。長い五輪の歴史の中でも初めてのことである▼過去の大会でも女子選手が旗手になるケースはあったとはいえ、大半が男子選手。国際オリンピック委員会(IOC)は昨年三月、男女平等の観点からこれを見直そうと参加国に対し男女一人ずつの旗手を選ぶよう奨励していた▼当日の入場行進を見れば、大半の国がその要請を受け入れ、男女で旗を掲げている。身長差のある男女が旗ざおを握ってともに歩くのは難儀なようで相手を引っ張ったり、引っ張られたりというシーンもあったが、これはこれでほほ笑ましい▼旗ざおを男子が握り、旗の端を女子が持つというスマートな国もあった。なるほどこれなら歩きやすい。日本は交代制でレスリングの須崎優衣選手とバスケットの八村塁選手が交互に旗を運んでいた。身長も歩調も異なる男女がどうすれば平等にそして円滑に旗を運べるかと知恵を絞る。平等な社会に向けた手本となる態度だろう▼男子が一人で旗手を務める国もあった。歴史は簡単には変わらないが、続ければ、男女の旗手が普通になっていくはずだ。その旗を巻いて逃げてはなるまい。