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今日の筆洗

2021年07月27日 | Weblog
 将棋の羽生善治さんは人前で話すのが大嫌いだったそうだ。タイトル戦の表彰式でわずか数分のお礼の言葉を述べるときでさえ、足の震えが止まらなかったと書いている▼その後、それほど緊張しなくなった。あるとき、こう気づいたからだそうだ。「自分の話をまったく聞いていない人もいる。聞いたとして、すぐに忘れる人もいる」。なるほど。そう考えると、少しは気が楽になるか▼このチュニジアの選手も次のパリ五輪での金メダルが目標だったそうだから羽生さんと同じような心境だったかもしれない。東京五輪の競泳男子四百メートル自由形で優勝したアハメド・ハフナウーイ選手である▼予選通過は最下位。失礼ながら注目されていなかった無名の選手が残り五十メートルから逆転し母国に史上五つ目の金メダルをもたらした。「自分でも信じられない」。レース後の涙が印象に残る▼決勝タイムは自己記録から約五秒も短縮している。五輪という大舞台の上で急成長し普段以上の力を発揮できた十八歳がまぶしい。受験生なら本番の強さにあやかりたくなるか▼同じ日、チュニジアでは反政府デモの拡大を受け、大統領が議会の停止を宣言した。独裁政権を倒した「ジャスミン革命」から十年となるが、政情は落ち着かぬ。コロナ禍と経済不振も国民を苦しめる。奇跡の金メダルが少しでも国民の慰めと希望につながればと願う。