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今日の筆洗

2021年07月10日 | Weblog
 この夏も夜空は少しさびしいままのようだ。昨年に続いて、各地の花火大会の中止の知らせが相次いでいる。自由に旅ができるのもまだ先だろう。花火を愛し、旅に生きたその人なら無念な夏かとふと思う。画家山下清である▼最高傑作ともいわれる貼り絵に「長岡の花火」がある。民芸運動の柳宗悦(やなぎむねよし)と英国人陶芸家バーナード・リーチが、ある部屋でこの作品を見た。二人は<他の話題を忘れたように…ながめつくした>そうだ。誰の作品との比較か不明だが、<五十年後に残るのは花火の方じゃないかな>とリーチが話した(池田満寿夫、式場俊三著『裸の放浪画家・山下清の世界』)▼画家が亡くなって今年は五十年。十二日が忌日だ。本物の花火が縁遠い五十年後の夏、本の中にその作品を見る。光跡、星、人…と、花火の一夜を凝縮したような技である▼芸術の素人は両国、富田林などよその花火の絵や花火以外の作品などとともに感動させてもらった。生前から山下清を低く見る声があったそうだが、どうなのだろう▼「みんなが爆弾なんかつくらないできれいな花火ばかりつくっていたらきっと戦争なんて起きなかったんだな」。残したという言葉は、今も味わい深い▼平和への思いを込め、故大林宣彦さんが撮った映画『この空の花 長岡花火物語』(二〇一二年)にも言葉は登場している。存在感は今なおだろう。