漫画「フクちゃん」の横山隆一さんは終戦直後、GHQに出向き、抗議した。戦争中、米軍が盛んにまいた降伏勧告の宣伝ビラ。そこに「フクちゃん」が無断使用されたのが許せなかった▼GHQは戦争中のこととつっぱねたらしい。おもしろいのは一九九五年、横山さんが文化功労者に選ばれた祝賀パーティーでの出来事。米高官が訪れ、その使用料百八十円を贈呈した。漫画家仲間が米側に働き掛けたらしい。きっちりと取り立てた横山さん、「これで私の戦後は終わった」▼GHQに直談判までしたのは自分の仕事へのプライドだろう。なにゆえ、この話かといえば、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、国会議員歳費が二割削減となる一件である▼経済的打撃を受ける国民と痛みを共有し、わずかでも国の財政を軽くしたいということなのだろう。国民世論には当然という声の方が大きいか▼寂しいのは自分の仕事にプライドを持ち、歳費削減はおかしいと抵抗する国会議員が少ないことかもしれない。歳費分、ちゃんと働いているとくやしがる与党議員が見当たらぬ▼高倉健さんが高額な出演料にこだわったのは仕事に手を抜かぬためと聞いたことがある。はいはいとやけに素直に削減に応じる政治家は仕事の方も二割方、手を抜きそうな気がしてならぬ。政治家には国民に対し少し負い目を感じさせておいた方がいい。