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「希と燕」3

2015年02月10日 | T.B.1961年


「希、今日、何かあったの?」

狩りの帰り道
その声に希は振り向く。
同じ西一族の丹子(にこ)が立っている。

歩みを遅め、丹子と足取りを揃える。

「あぁ。ちょっと大物を深追いしすぎた。
 ―――でも、雌鹿が獲れた」

「そうなんだ!!
 煮込みスープにしたら美味しいよね。
 私、あれ大好き!!」

彼女は歳も近く、
今日は違うが、同じ班で狩りをする事も多い。

「……」

「希?」
「―――いや、そんなに好きなら
 後から持っていくよ」
「ええ、ダメだよ。
 希たちの収穫なんだから」

「でも、煮込みスープ好きだろ?」
「……それは」
「だろ」
「えへへ、じゃあお言葉に甘えようかな。
 ちゃんとお礼するね」

何だか悪いな、と、申し訳なさそうな丹子に
希は言う。

「丹子だって、頑張ってただろ」

ううん、と丹子は首を振る。

「私は狩りが下手だから。
 大きな獲物に向かっていく勇気もないし」

丹子の班は、
ウサギが一匹だっただろうか。
狩りの報告を希は思い出す。

「十分じゃないか。
 それに丹子は小さい子たちの面倒を見ながらの狩りだから
 仕方ないよ」

丹子は狩りが苦手なのを希は知っている。
時々、矢を射る時のコツや、
気配を消して獲物を待つ事などを教えているが、
それでも、
獲物を前にした時にどう動けるかというのは
生まれ持った部分が多い。

「ねぇ、燕は凄いよね」

不意打ちの様に呟かれた弟の名前に、
希は思わず動揺する。

「瞳の色なんてものともしないで
 狩りの実力だけで村の地位を保ってる」

西一族は狩りの一族。
狩りの腕前で村の立ち位置が決まる。

逆に純粋な西一族でも
狩りが出来なければ立場が弱い。

「すごいなぁ」

丹子の言葉が希に響く。

「私には、きっとできない」




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