琴葉は、山一族の女性に続く。
「あの黒髪には、また借りが出来たよ」
「借り?」
「うちの鳥を助けてくれたり、裏一族を追い払ってくれたり」
「裏?」
「まあ、西一族は知ることもないのだろうけど」
もちろん、琴葉も知らないこと。
「無事なの?」
「無事だよ、不思議なくらいね!」
「助けてくれた?」
「手当てはやったから」
山一族の女性は、村の中心の屋敷に、琴葉を招き入れる。
屋敷の中を進む。
ある部屋の中で立ち止まる。
「おっ、夜明けだ」
その言葉に、琴葉も外を見る。
日が現れる。
「久しぶりにいい天気になりそう!」
云いながら、山一族の女性は扉を開ける。
「迎えが来たよ!」
それだけ云うと、山一族の女性は琴葉の肩を叩く。
そのまま、どこかへと行ってしまう。
琴葉は、部屋の中に入る。
「…………」
「…………」
琴葉は息をのむ。
そこに、黒髪の彼が横になっている。
「大丈夫、なの……?」
かなりの怪我をしているように、見える。
彼は、琴葉を見る。
けれども、視線は合わない。
「見た目よりは全然平気」
「でも……」
「身体が動くようになるまで、時間がかかるんだ」
「どう云うこと」
「無理をしたってこと」
「無理を?」
「もう少し待ってて」
「…………」
琴葉は、彼の横に坐る。
「…………」
「…………」
「お、遅くなったけど……、迎えに来たから」
「ありがとう」
「治ったら、すぐに、……帰るわよ」
「うん」
彼が云う。
「君が来てくれると思ってた」
「…………」
彼が続ける。
「大変だったね、山道」
「……別にっ」
「足が、」
「いつだったか、北に迎えに来てくれたから!」
「お礼ってこと?」
「ああ。うん。まあ」
「そうか」
「…………」
「もし」
彼が云う。
「このまま、西に帰らないと云ったら?」
「え?」
「もしもの話」
「何を、」
琴葉は、口を結ぶ。
目をそらす。
そうだ。
黒髪の彼は、西一族の村では煙たがられている。
自分と同じように。
狩りだって、利用されているだけなのだ。
このまま、どこかへ行ってしまった方が、彼にとってはいいのかもしれない。
……でも、
もし、そうなったら、……自分は?
彼のように、村外で生きていく度胸はない。
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