TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「海一族と山一族」10

2016年05月10日 | T.B.1998年

カオリは
アキノに支えられながらお茶を飲む。

「おいしいわ」
「どういたしまして。
 まだ、無理に動かない方が良いわ」

アキノはカオリの背中に枕を置き
上体が起きるようにする。

「初めて飲む味」
「毒は入っていないわよ」
「いいえ、そうじゃなくて」

「?」

「私、本当に海一族の村に来たんだな、て」

この部屋は山側に窓がある。
元々この家もどちらかと言えば
海一族の村の中では山に面して居る。
それで、カオリを人目に触れさせず運ぶことが出来たが
海を見たらもっと驚くだろうか、と
トーマはぼんやりと考える。

「体調はどうだ?」

トーマの問いかけに
カオリは頭を下げる。

「ごめんなさい。
 すぐに出て行くわ」

「そうじゃない。
 そういう心配はしなくて良い」

ね、と
アキノが声を掛ける。

「あなた、あちこち打っているのよ。
 それに随分体を冷やしていたようだから
 お医者様に診せたいのだけど」

少し考えてカオリが言う。

「でも」

「そうね。
 あなたのことが村に知れ渡る事にはなる」

「俺達も取って食ったりはしない。
 どうやら事故のようだし、
 長がきちんと村に帰してくれる、と思うけど」

それでも、カオリの顔色はさえない。
トーマは提案する。

「もし、事を荒立てたくないのなら
 ウチでしばらく休んで 
 体調が戻ったら俺が村に送ることも出来る」

「トーマ」

アキノが諫めるように言うが
大丈夫だ、とトーマはそれを制する。

「ただし、危ないと判断したら
 すぐに医者見診せるからな」

「……ありがとう」

カオリはここに来て
初めて表情を緩ませる。

「助けてくれたのもあなたなんでしょう。
 優しい人が見つけてくれて
 私、とても運が良かったのね」


カオリが横になったのを確認して
トーマとアキノは部屋を出る。

「……これからどうするの?」

「数日は様子を見て
 また、考えてみるよ」
「数日でどうにかなる問題かしら?」

アキノのため息に
トーマは頭を下げる。

「本当に、助かったよ。
 ところで、彼女の部屋なんだけど」
「母屋はダメよ。
 父さんや姉さん達が居るし
 それにウチにはチヒロもよく来るし」

あぁ、とトーマは
納得がいく。
アキノの恋人は人としてはとても良いのだが
なにぶん口が軽い所がある。

「あなたの家で面倒を見るしかないじゃない。
 部屋が1つという訳じゃないのだし、
 寝室ぐらい貸してあげたら」

「でも、男の家でってのは」

「あなたいくら何でも
 病人には手をださないでしょう」
「そりゃ、当たり前だけど」
「別にばれたとき困るような
 恋人も居ないし」

う、と言葉を詰まらせるトーマを
からかうように
アキノが言う。

「かわいい子、だったわね」

だから、と
トーマは言う。

「そういうんじゃ無いって」


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